第18話 トーテムを出発。

◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日。

快斗が付けている、腕時計の針が差しているのは7時。


部屋から出て来た快斗たちが、フロントにキーを返して馬車に乗って大通りを進む。


「…ふぁあ。ちょっと早かったかなぁ、出るの」

「そうですか? 少し横になりますか? 」

「目立たないためには早い方が都合がいいけど、流石に眠い。悪いアミエル、ちょっと横にならせて」

馬車に乗る快斗の護衛として同乗しているアミエルは、眠そうに目を擦り、寝癖がまだ付いている快斗を見て自分の太ももをさすって提案する。

快斗はあまりの眠さにアミエルの言葉に甘えることにした。

ちょっと体をずらして、頭を彼女の太ももの位置になるように横になる。


大通りも人がそこまで多くないが、それでも高級感あふれる黒塗りの馬車は十分に目立つ。

馬車を引く屈強なスレイプニル2体に女性兵士が乗り、馬車の脇に2人ずつ、後ろに3人。

寸分の乱れも感じさせない動きで歩く9人の女性。


快斗が考慮の結果時刻を早めたが、それでも道行く少数の人はほとんどチラ見して通り過ぎて行く。


「…アミエル、ごめん。ちょっと、寝させて。何かあったら、起こして、ね」

「分かりました。ゆっくりお休みになってください」

既に眠気に襲われていた快斗は直ぐに意識を下ろし、ゆっくりと寝息を立て始める。

それを幸せそうに眺めるアミエルは、直ぐに顔を引き締めて前を向いた。



「『意思疎通』」

快斗に聞こえない様、小さな声でスキルを発動したアミエル。

ゆっくりと街の大通りを進む馬車。


『意思疎通』

このスキルは、特殊系の初期に手に入れられるスキルであり、『NPC』の彼女達にとっては必須、そして軍において指揮系統の基本スキルである。

このスキルを持っているもの同士で意思の疎通ができ、相手の顔を認識することで意思を飛ばすことが可能になる。


そしてアミエルが繋いだ先はーーー




『レン、ラン。今我々はこのトーテムの街を出ようとしている』

快斗が馬車のわずかな揺れも感じない様に、しっかりと太もも、とお腹に挟む様に固定しながら『意思』を飛ばす。


『そうね、もう行っちゃうのね…』

『悲しいわ…』

『『王都、楽しみね…』』

意思の届いた先、レンとランは馬車の横を歩きながらアミエルに返答する。

外見ではスキルの仕様など、一切悟られることはない。


『そう、だがこの目出度い我々の出発に不要なものがいるな?』

アミエルの鋭かった瞳が、より一層細くなる。


『あらら、隊長お怒りね…』

『どうしましょう、どうしましょう…』

言葉とは裏腹に、とても楽しそうに、そして上品にわらうレンとラン。

綺麗な金と銀の瞳がスッと三日月を作る。


『始末…、と言いたいところだが、カイト様はそれは望んでいない。だがせめて、これ以上跡を尾けられるのは不快だな?』

鋭かった瞳が少し和らぎアミエル。


快斗は男爵が派遣した監視に、穏便とは名ばかりの、面倒だからと放置していたが、流石に護衛を担当するアミエルがそのまま放っておくわけがない。

街の中での接触もなく、攻撃の意思が感じられなかったので直接的な対処に出なかったが、この街を出てからもついて来られる可能性がある以上、それ相応の行動に出なくては護衛の名が廃る。


それにあの武器屋での会話を聞かれ、行く先を知られている可能性がある。


『見られるなんて…』

『あぁ、いやねぇ…』

『『気持ち悪いわ…』』

棒読みのセリフがすぐにアミエルに帰ってくる。


行動を知られるのは不快だ、と顔に出ているアミエルは、そのまま言葉を続けた。


『レン、ラン。…消して来い。我々に関する情報、全てを』

『『了解しました…ふふっ』』

馬車の脇を歩くレンとラン。


アミエルの命令に返事した瞬間、まるで空気に体が解ける様にその場から姿を消した。






◇◆◇◆◇◆◇◆

ドーラン王国の南に位置するダーリン男爵領。

そして男爵が住む男爵領の要の街、トーテムはカルバット帝国の国境にある重要な街だ。

その為男爵である下級貴族が治める街にしては大きく、そして栄えている。


中央に男爵の屋敷があり、カルバットに向かう南の側の街は商業施設が広がり、西に歓楽街、東に住宅街、そして北に広がる鍛治施設群。


朝日が斜めから差し込み、小型の鳥型モンスターである『チョールディ』の鳴き声が聞こえるこの街で、2名の影が唐突に現れた。


男爵の屋敷から数十メートル上空。

金と銀の髪を風になびかせる瓜二つな美しい女性。

陽の光で輝く対となる髪色とは逆の瞳。


「じゃぁラン、早速仕事をしちゃいましょう…」

「そうねレン。でも、今回はちょっと範囲が大きいわね…」

「あら、このくらいの大きさなら二人でやれば大丈夫よ…」

「まぁそうね…」

「「じゃぁ、行きましょう」」

銀髪のレンが金髪のランに語りかけると、彼女は困った様にしたの街を見渡す。

彼女の瞳に映るのは、推定半径三キロの大きな街。

でも、直ぐに貼り付けた様な微笑みに変わる。


そして二人は合図と共に、呼吸を合わせてスキルと唱えた。


「「『『精神同調』』、『『範囲拡張』』、『『効果循環増幅』』」」

寸分違わず揃って口にするのは、補助系スキル。

『精神同調』で二人の魔力を繋げて巡回させ、次から発動するスキルの効果を跳ね上がらせる。

そして次の二つでこの大きな街に効果を及ぼせる様に準備する。


僅か10秒。


彼女達が下準備を終わらせたその時間が、この街に残された唯一の対抗時間だった。


そして彼女達は口を揃えて発動する。


「「広範囲型精神系スキル『『記憶抹消』』」」

その瞬間に、彼女達を中心とした紫色の輝く魔法陣が一瞬で広がる。

街を覆い尽くす様に広がったそれは、一際輝いたと同時に、弾ける様に霧散した。


そう、たったそれだけの出来事で、彼女達は仕事を終えた。

アミエルに頼まれた、この街の住民全てからアミエル達を含む快斗の情報を全て記憶から抹消したのだ。


「ふふっ、簡単なものね…」

「抵抗も一切無いなんて…」

「「あぁ、弱い弱い…。戻りましょう、カイト様の元へ」」

侮蔑を含んだ表情を浮かべるレンとランは、その美しくも残酷な表情を直ぐに美しいモノへと戻すと、現れた時と同様に一瞬にして姿を消した。








●●●●●●●●●●●●●●●

これにて1章は終了です。


随分と長い序章に様な、内容が薄い物になって申し訳有りません。


一応はここまではプロットを組んで考えたのですが、書いていて意外と薄い内容になっていることに気がつきまして。


やはりもっとプロットを細かく組んだほうがいいんですね。


では、また2章が出来ましたら読んでいただけると幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レベルがリセットされたけど、初心者救済アイテムがあるので安全な旅になりそうです。 アルアール @aruarl

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ