第2話
サクッ サクッ
軽い足音にフミオは顔を上げた。
伏せていた目には太陽がまぶしい。
フミオは顔をしかめた。
「どうしたの?」
麦わら帽子の女の子が一人、光の中に立っていた。
手にはさっきのビーチボール。
「ねえ、どうしたの?」
女の子はまた、聞いた。
「こんなにきれいなボール、どうして捨てちゃうの?」
その声は優しくて、フミオは思わず「ああ…」とため息をついた。
胸をふさいでいた塊が少し、とけていた。
「もう、いらないんだよ。」
「どうして?」
女の子は言いながら、フミオの隣に腰をおろした。
フワッと、優しい、不思議な香りがした。
「ついさっき、お父さんが言ったんだ。
『フミオ、お前の弟は、空に帰ってしまった。
ほんの三日しか、地上にいられなかったんだよ。』って。」
「そう…」
女の子は悲しげに眉をひそめた。
「お母さんはまだ病院で、ずっと泣いてる。
お父さんは弟のために用意していた部屋を片付けながら、こっそり泣いてる。
…僕、弟にあげるために、それを買ったんだ。
だから、もう、いらない。」
また胸がくるしくなってきて、フミオはもう一度、顔をふせた。
女の子はその頭に、自分の麦わら帽子を
ポスッとかぶせ、立ち上がった。
「ねえ、このボール、弟くんにあげにいこうよ。」
「えっ!」
「あげにいこうよ。このボール。」
女の子の笑顔はまぶしくて、なんだか信じられるように思えた。
「うん‼︎」
二人は手をつないで砂浜をかけだした。
「いくよ!」
「うん!」
二人の足は砂を蹴り、そのまま空をかけた。
白い大きな入道雲がグングンと近づいてくる。
「あそこに行くの?」
「そう!」
ザブン!
飛び込んだ雲の中で、フミオは潮の香りをかいだ。
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