〆切りまで、あと五分。

水乃流

フィクションです

 あぁ、どうしよう。あと五分で千二百文字。


 五分は十二分の一時間、秒にすれば300秒しかない。ってことは、一秒当たり四文字書かないといけない。パソコンだから、書くんじゃなくて打ち込むんだけど。いや、そのくらいのペースなら、打ち込めないことはないよ。こちとら親指シフトがあったころから、キーボードには慣れ親しんでいるんだから……って、そんな問題じゃない。今、問題なのは時間だよ、時間。いや、書くことは決まっていたんだよ。これまでに長い時間かけて構想を練って来たわけさ。そりゃ、書き出しをどうするか悩んで、悩んで、それで書き出すのは遅くなったけど。ちゃんとね、ほら、あと千二百文字を残すだけのところまで来たじゃないか。

 そんな目で見るなよ。うん、ラストだよ。ラスト千二百文字。四百字詰め原稿用紙ならたった三枚じゃないか。小学生の作文ならちょっと辛いかもしれないけれど、こっちは大人だよ? ちょちょいのちょい、ってなもんさ。そういえば、原稿用紙なんて随分と使っていないねぇ。今はもっぱらワープロソフトかテキストエディタだね。四十文字で改行設定だから、千二百文字だと三十行だね。十行のブロックを三つだね。そう考えると、簡単に思えるよ。

 いいから早く書け? だから、書くんじゃなくて打ち込むんだってば。……はい。そうですね。書きます。余計なことを考えずに書きます。色々な方面にご迷惑をお掛けしている事は、重々承知しております。私も大人ですから、諸般の事情を鑑み、様々な対処を考慮してですね、誠心誠意打ち込んでおります。文字通りキーボードで。

 ……そういうことじゃない? じゃぁ、どういうことなんだよっ! 逆ギレするな? 逆ギレってなんだよ、キレることに正方向も逆方向もないだろ! ごまかすな? ごまかしてないよ! 切羽詰まっているんだよっ!

 あぁ、もう! しかたない。こうなれば――。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――行間を、読んでくれ。

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〆切りまで、あと五分。 水乃流 @song_of_earth

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