太陽に焦がれる

位月 傘

第1話

僕たち双子の血が繋がっていなかったと聞かされたのは、つい先ほどのことだ。

僕はどこか納得していて、彼女に連れていかれるがままに2人の自室に引きこもり、床に落ちていた漫画を開く。彼女は彼女で、閉じこもるようにヘッドフォンをしてノートを引っ張り出していた。喧しい蝉の声とは対照的に、室内は恐ろしいほど静まり返っている。

彼女は僕の考えがわかるのだといつか笑って言っていた。きっと同じ存在だったのだと。

僕にはそれがわからなかった。それでも馬鹿なことをと一蹴できなかったのは、どうしようもなく彼女の運命になりたかったからだ。

「でも私は、私たちは双子だと思うよ」

あのときと同じように笑ってそういう彼女の考えていることなど、僕には理解できない。

どうしようもなく遠くて、手を伸ばさずにはいられない。

「私にとっての運命の形は、あの蝉たちなのかもしれない」

数少ない時間で出会い、死んでいく様は運命なんかじゃない。お前の言っていた運命とやらはそんなに浅ましいものなのかと問い詰めたかった。それはただの感傷に他ならないと。

しかし僕の口からは別の言葉が溢れる。喉はカラカラだったけれど、ペットボトルに手を伸ばす気にはなれなかった。

「だったら、本当の運命になろう」

それが運命だっていうなら、なってやろうと思った。溶けるような熱さでおかしくなってしまったのかもしれないし、僕が思っているより血が繋がっていなかったことがショックだったからヤケになっているのでかもしれない。

それでも目の前の人が微笑んで自分の手を取ったのだから、僕はそれだけで他のことなんてどうだってよくなってしまった。

開け放たれたベランダへ出て行くと、肌を焦がす太陽とは対照的な、潮の匂いのする風が火照った体を冷ます。

彼女も僕も迷いなくベランダの柵に腰をかける。どうも頭だけは火照ったままらしい。

身体が重力に従って落ちて行く。

この日、僕たちは蝉になった。


そう、あの時の僕たちは蝉になったのだ。そしてやはりというべきか、僕たちは運命ではなかった。

生まれ変わっても血の繋がりは無かったし、彼女の方はすっかり僕のことなんて覚えていなかった。同じ存在だなんて大嘘にもほどがあると思わず自嘲する。

ほらみろ、前回のあれは僕の我儘と彼女の妄想が見事に噛み合ってしまっただけの悲劇に他ならない。

忘れてしまえ、それがきっと1番幸せだ。分かっている、それでもどうしようもなく焦がれてしまう。

真実、僕は蝉だったのだ。後先なんて考えていない。いや、頭によぎっても蓋をしている。

「はじめまして、僕は──」

運命になれるなら。僕はまたしても蝉になったのだ。

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