エピローグ

だがドラゴンの娘はやり直しを求める

 アタシとイルイルの前には今、ボロボロになった元国王が床に「あべし」と血文字を書いて横たわっている。

 先に言っておくけど、これは逃げ場の無い怒りをぶつけた結果だった。


 …………。


 時間を少し戻して……。

 王子の要請から始まった過去への旅。

 その結末は、この国は民主化だった。


 民主化という新たな道を作ったのはレジスタンス達。

 それを裏で導いていたのは、ちゃらんぽらんこと国王フリードだったらしい。

 フリードは民主化させる為、レジスタンスを結成、そしてそれを使って貴族の屋敷などを抑え、自身は表向きには処刑された、ということにして王国の終焉を迎えさせた。

 だがこの計画は、国民のほとんどが知っていた事実、それを知らなかったのは貴族とよそ者のアタシ達だけだったみたい。

 後でフリード自身から、そう教えてもらった。


 きっとこの結末はとても良いものだろうと思う。

 人々は嬉しそうに笑い、楽しそうに働いているし、きっといい結末になったのだと、アタシは信じたい。


 そしてこれから、アタシとイルイルと王子様の三人の新たな愛ある未来への道が開かれるのだと思う。

 今は城ではなく、タダの一軒家に住んでいる訳だけど。

 二人三脚、いえ、三人四脚で協力していけば素敵な未来への扉が……。


 …………。


 「すいませんね、ダメなんですよ~新たな法律でね」


 始まらなかった。

 仲良く家の扉を開け外へ出て直ぐに、アタシ達は民主化して憲兵になっていた、何とか元将軍に捕まっていた。


 「せっかくの晴れなのに! せっかく王子様に買ってもらった服を着ているのに! 第一何をやったって言うのよ! 教えてよ、しっとり将軍!」

 「シッドですよ。 えっとですね、今日発行された新憲法の第32条にですね、1人で2人以上の異性とイチャイチャしてはいけない!って法律がありましてね」

 「え!? 別に良いじゃない! 恋愛は自由でしょう!?」

 「いや、ダメなんですよ! 前国王の頃、国王がナンパのし過ぎたせいで、カップルが異常に少なくなりまして、それで出生率がですね……。 それとイルさん、ミュードラさん、服装がグレーゾーンです」

 「はい!?」

 「前国王の頃、一般には露出の激しい服をどんどん推奨してましたからね、その反動で、女性は露出の激しい服はアウトになったんですよ。 お二人はグレーゾーンなので、大丈夫でしょうが、とりあえずお気を付けください、これは民主主義になった結果なのですから」


 うん、分かる。

 イルイルと今、互いにニコニコした顔を浮かべ、静かに見つめあってるけど分かるよ。

 アタシは、それを確認するため、しずかに拳と拳をポンポンと合わせる動作をする。

 それを見たイルイルは、首をコクリ、間違いない。

 イルイルもアタシと同じで。


 (あの、ちゃらんぽらんの元国王をぶっ飛ばしたい!)

 (あのバカが、そんな事をしていなければ、いずれヤレたはず)


 そう思っているのだと、アタシはここに確信した。


 …………。


 「おや、お帰り~二人とも~」


 家の扉を開け、直ぐに殴りたい顔が出迎える。

 いまや、憲兵として働くシルフィや王子様

と違い、一日中ゴロゴロしている元国王改め、自宅警備員フリード。

 流石にいろいろと怒りが溜まっていたアタシ達は。


 「あれ~ニコニコしてるけど、沈黙で怖いな~二人とも~、逃げたいな~俺~……ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 逃げ場の無い怒りをちゃらんぽらんに落とした。

 これが、元国王が血文字を書く羽目になった原因。

 そしてアタシたちは。


 「のう、やり直さぬか、ミューよ?」

 「うん、やり直したら、今度こそヤレるかもしれないからね!」


 そしてアタシたちは過去へ戻り、もう一度物語をやり直す。

 ここは一か月前の過去、それを知るのは3人だけ。

 でも、それが2度目の一か月前だと知るのは二人だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

振り返ればあの時ヤれたかも 赤城クロ @yoruno_saraku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ