人生の終わりに光の花束を

くるる

人生の終わりに光の花束を

 最近の異常気象は近年稀に見るレベルだと思う。猛暑が続き、気温は四十度を超え、地震や台風の被害も多く、スマートフォンのアラームが連日鳴るようになった。

 そんな非日常の続くある日の朝、ニュースを見ながら身支度を整えている時のことだった。


「今日も平均気温三十八度か、授業なんか受けてる場合じゃないと思うんだけどな……」


 うちの学校はエアコンが導入されていない。下敷きで暑さを凌ぎながら、何とか勉強しているが、この暑さでは勉強どころではない。隣のクラスでは熱中症で倒れた生徒もいるらしい。休校になればいいのになどと考えていると、携帯電話が不気味な音を立てて鳴り響いた。また、緊急警報か。最近は、遠方の災害でも鳴るようになり、どこか他人事の気持ちでスマートフォンの画面を表示した。


「政府からお知らせです。日本の上空で隕石が観測されました。飛来まで、後、三百秒。落下地点は○○地区と想定されます。□□県にお住まいの方は至急避難してください」


 それは、僕の住む地区の名前だった。大変だ。そんなに早く避難など出来るはずがない。間に合わないのは仕方ない。避難することを諦めると、人生の最後にやりたいことを考えることにした。

 五分あれば、カップラーメンが作れる。音楽が一曲聴ける。ソーシャルゲームで一クエストプレイ出来る。いや、違う、最後にしか出来ないことをしたい。そうだ。告白をしよう。

 僕は千沙に電話を掛けることにした。千沙は幼馴染で、小さい頃からずっと一緒にいた所謂、腐れ縁という存在だ。ずっと好きだったけれど、距離が近すぎて思いを伝えることが出来なかったのだ。


「もしもし、千沙?」

「栄太? こんな時にどうしたの」


 落ち着いた千沙の声が無事なことを教えてくれた。


「こんな時だから電話してるんだよ」

「何、心配してくれてるの? 意外と可愛いところがあるのね。今は早朝の天体観測を楽しんでるわ。最後にこんな美しい光景を見られるなら、それはそれで幸せじゃない?」


 千沙の語尾が震えていた。本当にコレでいいのか。僕のしたいことは告白なのか。そんな自己満足より、彼女を守ることの方が大切ではないのか。僕に出来ることは何かないのか。


「……うん、心配したんだ。でも、安心して。隕石は僕が打ち返すから」

「打ち返すってどうやって?」


 どうやって? 傘立てに昔使っていた、金属バットがあることを思い出した。


「任せて。僕は中学生の頃、野球部だったんだ」


 通話を切ると、バットを手に外へ出た。窓ガラスが割れる音が聞こえ、立っていられないほどの強風が巻き起こっている。上空で大きな閃光が花束のように輝きを放っていた。最後の審判とはこういう光景なのだろうか、人生の最後に見るのが盛大な打ち下げ花火というのも悪くないかもしれない。


 時速数万キロメートルの速さで飛んでくる光源をめがけて僕は全力でバットを振った。

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人生の終わりに光の花束を くるる @yukinome_kururu

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