声の渡り
安良巻祐介
土砂降りの中、ひょうひょうと声を上げて飛ぶ鳥を追いかけて、泥に濁る田んぼの続く畔道を、裸足で走ってゆく。
真っ向から顔に当たって流れてゆく雨の縞が、自分のことを人でない何かのように見せている気がして、恐ろしくて仕方がないが、足を止められない。
ひょうひょう。ひょうひょう。声はずっと遠く、雲の向こうででもあるかのごとく、響いている。
ずっと昔から声を聞いて、その度に姿を想像しようとして、いつも半ばでやめてしまっていた。
それは、自分の中の何かがいつも引きとめたからだ。
しかし、何かのきっかけで、制止を振り切って、走りだしてしまったのだ。そうなってしまえば、後は声を追いかけて、どこまでもどこまでも走ってゆくだけであった。
ひょうひょう。ひょう。弓をつがえて矢を放つ時のような、剽悍とした響きでありながら、同時に何か鎌首をもたげているような不気味さも、その中にはあった。
目に、鼻に、口に、次々と入り込んでくる泥の雨の味を感じつつ、全身をこの狂った縞模様の一部にしてしまう勢いで、耳だけを開いて、あの声に向かってゆく。
そもそも、あれは本当に鳥なのだろうか。そんな思いも頭をよぎるが、もはや足が止まることはなかった。
声の渡り 安良巻祐介 @aramaki88
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