確率パイセンには敵わない
ぼちぼちぼっち
第1話
薄暗い階段を登る足取りは重い。
僕はある目的のために旧校舎の最上階にある文芸部の部屋へ向かっていた。
「し、失礼します」
恐る恐る扉を開けると、
奥の窓から眩しい夏の太陽の光と
心地良い海風が飛び込んできた。
「なんや、お客さんか?」
まず声をかけてきたのは、
仰向けに寝転がって本を読んでいた男子生徒。
「あの、ここに来れば確率センパイに会えると噂に聞いて...」
「おー、律!お前にお客さんやで」
律と呼ばれたその女子生徒は、
ヘッドホンを外し
「何?キミも私の
通称、確率パイセンは一見ごく普通の女子高生だが、ある異能の力を持っていた。
確率操作
ソーシャルゲームのガチャの確率を自在に操る能力。
それも確率1.5倍とか2倍とか生半可な力ではない。
100%
SSRだろうがURだろうが狙ったカードを100%の確率で引き当てるというのだ。
尋常ならざる異能の力
昨晩ガチャで手酷く爆死した僕は、
「どうしても推しの新規SSRが欲しいんです!力を貸して下さい!
僕に出来る事なら何でもしますから!」
「そうね。じゃあキミのスマホをちょっと貸してみなさい」
言われるがままにスマホを差し出すと、
センパイはアイドルゲームのアプリを起動した。
「で、キミの推しは誰?」
「
「わかった。願いを叶えてあげる。ただし1つ条件があるわ」
やった!心が踊る。
どんな条件かは分からないけど
推しのためなら何であろうと乗り越えられる自信と覚悟がある。
しかし、センパイの次の言葉で絶望の淵に立たされる事になった。
「今この場で、あなたの推しのSSRを全部消去しなさい。1枚1枚、丁寧にね。」
困惑。わけがわからない。
その行為にいったい何の意味があるというのか?
センパイは続けてこう言った。
「その条件が飲めるのなら、
消去した数の倍のSSRを引かせてあげるわ」
悪い話ではない。
はっきりとアドが取れる条件である。
「わかりました...」
センパイからスマホを受け取り、画面に指を伸ばす。
センパイの言う通りに推しのカードを消す。
出来るのか?僕に…
カードは単なるデータではない。
カードの1枚1枚に出会いがあり、思い出がある。
苦労してガチャを回して、やっと引き当てた時の喜び、一緒に過ごしてきた日々は僕の心と体に深く刻み込まれている。
それを全部捨てろというのだ。
「できません...」
「そう、それで正解よ。
ガチャの確率っていうのはね。儚いからこそ価値があるの。
100%の確率で引くSSRと、キミがこれまで引き当てて来たそのSSRの価値は等価ではないわ。大切にしなさい。」
目が醒める思いだった。
次の瞬間、僕は無意識のうちにこう叫んでいた。
「センパイ!僕を弟子にしてください!」
僕の高校生活最初の夏が大きく動き出した...
確率パイセンには敵わない ぼちぼちぼっち @tekcill
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