カグヤと別惑星の物語

スマ甘

最後の5分

 ――惑星が崩壊するまで、あと5分。


 二又に分かれた刃が特徴の剣『マリウス』を正眼に構えながら、ボクは空の彼方を睨む。


 ある日、目を覚ました時のこと。

 ボクは、太陽系とは異なる星系にある、地球によく似た惑星に居た。


 そこで1人のエイリアンに助けられ、惑星に普及している技術や、戦い方を教えてもらった。

 そして、モンスターとエイリアンの戦争に巻き込まれてしまった。


 ――でも、長く続いたこの戦いも終わるだろう。 ボクのこの一撃によって。

 いや、終わらせる。


「……カグヤ」


 ボクを助けてくれたエイリアン『レッド・ディーナイト』が、ボクの名前を呼ぶ。


「心配しないで。 死ぬつもりはないから」


 ボクは、両手で握っていたマリウスを天に掲げた。


「――月の海に灯る光が、いま人類の歴史を照らし出す」


 ボクは詠唱を始める。

 魔術や魔法なんてもの、この世界には存在しないのに。


 でも、彼は言っていた。

 この星の技術を教えてくれた時に。


 "あらゆる光を、あらゆる物質や物体に作り替える"――というテクノロジーは、より高性能にできると。

 "物語を使えば、その主人公にだってなりきれる"と。


 だからボクは、好きだった小説の主人公――"かぐや"という、同じ12歳の、同じ名前の"彼"になりきることにしたんだ。


「吠えよ、人類にんげんを愛したケモノたち。 尊き世界を、その愛で包み込め」


 負傷し、疲弊し、後ろで倒れているレッドを、ボクはちらりと見る。

 こんな時でも彼は、ビキニにチャップスだなんていう、変わった格好をしていた。


 ――でも、どうして?

 そんな彼が、たまらなく愛おしい。


 彼は、ひとりぼっちだったボクを助けてくれた。 色々なことを教えてくれた。

 どんな時でも、ボクを抱きしめてくれた。


 地球では「月代つきしろの悪魔」だなんて呼ばれて、村八分むらはちぶにされてきたボクを……彼は愛してくれたんだ。


 だから、彼にボクの想いを伝えて、ついでに戦争も終わらせてしまおう。


「――人類、世界、未来に……幸せが訪れますように」


 星空に――月なんて存在しなかったこの惑星ほしの空に、大きく、丸く、真っ白い月が現れる。


 "星をひとつは壊せる"規模にまで編み上げられた光が、数々の神話を生み出してきた"月"になったのだ。


「――レッド」


 ボクは、モンスターのボス『マザー』に狙いを定めつつ、"鉛"を意味する単語を名前とした、オスのエイリアンを呼ぶ。


「ん?」


 彼は静かに立ち上がり、ボクに触れる。


「愛してる」


 ボクはレッドに想いを伝えた。

 すると、彼は後ろから抱きついてきた。

 そして――


「オレも、カグヤを愛してる」


 彼が、そっと耳元でささやく。

 ――ああ、ボク達はもう両想いだったんだね。


 ボクはマリウスを振り下ろした。


「――マリウス・ヒルズ・ホール!」


 叫ぶと、剣から青い光が、月の渓谷から6色の光が放たれ、マザーを跡形も無く消滅させた。

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