第3話泣き顔が好きな私の場合

 へったくそな泣き顔ね。可愛い子ぶってる泣き顔は趣味じゃないんだよね~

なんて思いながら、私は生徒を慰めていた。


教師という立場は非常に面倒が多く、煩わしいことばかり押し寄せる。

非常勤だからと言ってつかいっぱしりになることはないけれど、若いからと言って生徒の相談に乗るのは正直面倒だ。

 もちろん、表面上は体裁よく「そっか~。つらかったな。」なんて恋愛相談(主に振られたなどの)に乗るが個人的には何も思わなかった。

そこまで恋愛に気持ちが上下するような年齢になったからなのか、それとも忙しくそんな暇がないからだろうか、後者であってほしいと願いつつ私は慰めていた。


 「それでね。あの子は色目使って先輩に話しかけてて告られもしたんですよ。なのに急にスカして振ったらしいんですよ。ひどくないですか!」と、急に話を振られ「う、うん。確かに。」ぐらいしか言えなかったがまあそのあとも延々と愚痴ってたので問題ないだろう。

 はあ、私が見たいのはこんなんじゃなくてもっと。とまだ見ぬ別の生徒に想いを馳せていた。


 生来、私は自分の性癖が(性癖という言葉を知って以来か)普通のものだと思っていない。いわゆる、腕とか脚とか筋肉とか、そういうことに一切のフェティシズムを感じなかった。ただ一つ、私は「泣き顔」が最高にフェティシズムをくすぐったのだ。理由は一つで泣き顔が一番素の表情をが出やすいから、という単純極まりないことだ。もちろん世の中にはウソ泣きが俳優や女優のようにうまい人がいるが、そういった人を除けばおそらく一番顔が崩れていてシンプルな表情に近しいものになっているのではなかろうか。

 そんなこんなで私としては生徒の愚痴(恋愛相談)を聞くのは格好の場であり、目の前で泣こうものなら、思わず凝視してしまうのを耐えなければならないほど最高の瞬間であった。

 


 いつも通り、授業が終わり職員室に戻る時に先生、と声をかけられた。先日話を聞いた女子生徒だった。

「んー、どうした?」と聞くと相談したいことがある、と顔を隠しながら言ってきた。

 なるほど、どうやら彼氏かそうでなくとも好きな男子でもできたかな、と思いつつしばらく泣き顔は見れそうにないなーと残念がる自分もいた。

 少し離れた場所にある教室に入り、女子生徒が話すのを待った。基本的に私から話すことは少なく、何も話さなければ話さないまま一緒の時を刻んでいくだけだった。

 「あの、先生って好きな人いるんですか?」と急に話を振られたので、脳が混乱して対応できなかった。なぜ私の?と思い少し考えるとなるほど、おそらくこの子が好きな男子が私のことを好き、みたいな流れかな、と考えめんどくさいことに巻き込まれたものだとも思った。

 「いや、いないよ。」とシンプルに答えた。いちいち長く言う意味もないし学生同士勝手に恋愛してほしい、そしてどっかで泣き顔を見せてくれればいい、ぐらいにしか思ってないので巻き込まないでほしい気持ちが大きかった。


 「そっか。先生好きな人いないのか。」と顔を赤らめながら独り言を言い、急に何かを決心した顔になった。

 「先生、私ね。先生のこと好き。」後ろに小さく、かも、なんてつけられたその言葉はあまりに衝撃で椅子から落ちそうになった。

 「えっと、それはつまり、」

 「好き。付き合いたい。愛してる。」

 そんな続けざまに言われても、あまりに困惑しすぎてうまく言葉が出てこなかった。

 しかし、一つだけ確かなことはこの子の泣き顔は好みじゃない、それだけが私の中にある真実だった。それを直接伝えるわけにはいかないので、教職者的な面と個人的な面を合わせた感じで返すことにした。

 「そうだな。まずはありがとう。教師に伝えるなんてよっぽど勇気がいるんじゃなかったかな。」そう伝えると、感謝されると思ってなかったのかとても照れた顔になった。赤い頬は可愛さを助長させていたが、それでも私の好みではなかった。

 「ただね、私はあなたとは付き合えない。わかっているだろうけど未成年と青年だからね。手を出そうもんなら牢屋の中に一直線だ。」

 「じゃあ、卒業したらいいんですか?」

 「残念ながらそういう問題でもない。仮に君が卒業して告白しに来たら私は断るだろう。なぜなら私は君が好きだけど愛してはいないからだよ。」

 思ったより直球に物事を伝えてしまった。何かもう少し言葉を選ぶべきだったかもしれない。それでもほかに伝え方が思い浮かばなかった。

 「そっか。そうですよね。こうやって話を聞いてくれるのは、教師と生徒だからで、仲良くしてくれるのも、、、」と唇を強くかみ、下を向いて涙を見せないようにしていた。

 その姿にやっぱり綺麗さが足りないな、何て思いながら眺めていた。


そんな姿を見てたらなんだか無性に話したくなってきたので、

「もし、あなたが卒業しても私のこと好きだったらもう一回告白してね。」

と言うと、はっとして顔を上げた。涙に濡れてメイクの落ちた顔にはやはり素が見えておもしろい。

「その時までにもう少しだけ綺麗な顔で泣いてほしいな。」

ぽかんとした顔の彼女を置いて私は席を立った。何を言われたのかすらおそらく彼女は分からないだろう。それもそうだ。振った相手から綺麗に泣け、なんて言うやつがこの世の中にいるとも思えないだろうから。


一つ大きな伸びをして、私は職員室に向かった。

愛すべき泣き顔にはまだ出会えていない。でも、もしまた春に綺麗な花と泣き顔が合わさるなら私は何年だって待とう。

後ろから聞こえる私を呼ぶ声に応えながら私は期待した。


君の泣き顔は綺麗ですか。

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恋の愛し方 夢見アリス @chelly_exe

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