第2話恋に恋した私の場合

 きっかけは簡単なことだった。

 昔見た恋愛アニメのシーンがとても印象的で、おそらくその時からずっと恋に恋している。


 「先輩、今日もご一緒していいですかぁ。」とわざとらしく語尾を伸ばした話し方も、少し傾げた首ももう癖でしかない。

 いいよ、と笑顔で接してくれる早見先輩はいつも優しい。その横に座ってる安藤先輩の横顔はいつ見ても素敵だ。

 「いつも来るけど友達いないのか。」と直球を安藤先輩が投げてきた。

 「そ、そんなことないですよ。いいじゃないですか!」と慌てたふりをして私はできるだけ好ましい演技をした。もちろんこれも癖だ。

 こうやってわちゃわちゃと話すと、ああ好きだなーって気持ちと恋人になったら横を歩いてデートして…まで妄想するのが日課だった。

 だけど別に付き合いたいとかそんな気持ちは一切なかった。この気持ちが好きなのだ。フワフワしていて少し切なくて苦しいこの気持ちが。


 放課後になり何人かと教室で話をし、私は図書室へ向かった。こう見えて私は本が好きなのだ。本の中では私ができないようなたくさんの恋愛が詰まっている。もちろん私ができるわけじゃないけど気持ちを味わうには本が一番良かった。


 本を読んでると横から影が入り、見上げると安藤先輩が立っていた。ちょっときて、と言うので、いいところなのにと思いながら私は席を立った。


「お前って結局どっちが好きなの?」と相変わらず直球で聞いてくる先輩に思わず眉根を寄せてしまった。

「ええと、どういうことですか」と聞くと

「俺と早見。どっちが好きなのか聞きたいってこと。」

 ああ、そういうことかと思いつつ、私は残念な気持ちでいっぱいだった。

私は恋をしたいのだ。付き合う云々ではなく、近くからまた遠くから見て誰かと話す姿にもやもやしたり、笑った顔が好きだったりとそういう瞬間の気持ちに恋をしているのだ。決して今目の前に立ってる直球を投げるイケメンに恋はしていない。

「ああ、そーいうことですか!えーと私はどっちも別に恋愛感情はないですよ?」というと、嘘つけっと言われた。じゃあなんで毎回昼に来るんだ、と。

「先輩たちといると心が揺れ動くからです。ほかの友達といるよりも。先輩たちが話してるのを見て笑顔とかじゃれあってる姿が好きでその揺さぶられる心が好きだからです。」というと心底理解できない、という顔をされた。

「簡単に言うとどちらも好きじゃありません。あ、友達としては好きですよ?ただ恋人になりたいとかは一切ないです。」と告げた。

「そうか。わかった。」というと踵を返し、去っていった。

 実は安藤先輩の気持ちは少しわかっていた。が、まあそれは私としてはどうでもいいことだったし、今は本の中にいる彼女たちの恋愛に恋をしているのだから。


 さあ、今日も恋に恋をしよう。

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