ふしぎなものがたり

冬原 白應

鈴の音

 それは家族皆が寝静まった深夜に起こった。


 ちょうど眠りが浅くなった時だろうか。耳元で男の呻き声が聞こえ、私は一瞬で目が覚めた。けれど呻き声の主を見るなんてことは怖くて無理だと悟って目を強く瞑ったまま声とは反対側で寝ている姉に手を伸ばす。そして姉の手だと思われる柔らかいものを握り、声の主が早々にいなくなってくれることを願っていた。


 どれくらいの時間が経ったか分からないけれど、呻き声の合間に微かな鈴の音が聞こえ始めた。


——シャン……シャン……。


 まるでたくさんの鈴を一度に鳴らしているような音。脳裏に浮かんだのは神楽鈴。段々とその音がこちらに近づいてきたかと思うと、一際大きな音を鳴らして止まった。

 音の静止と同時に呻き声も途切れ、私の顔の傍にいたその声の主の気配も瞬時に消えたのが分かり安堵した。


「ありがとうございます」


 咄嗟に出た感謝の言葉を告げると睡魔がやってきて、安心感からかすぐに眠りに落ちていた。


 翌朝、姉に手を握ってくれた礼を言おうと思い、起き抜けに声を掛ける。あのとき姉が手を握り返してくれたことも安心の材料になっていたのだ。


 しかし——。


「え? 知らないけど」


 返ってきた答えに瞠目する。

 まぁ寝てたから反射で握り返したんだろうな、なんて結論づけて苦笑し、それでも助かったよと伝えると学校へと向かった。


 けれどよくよく考えると、確かに姉とは隣同士で布団を並べて寝てはいるが、その距離は結構離れていることを思い出した。

 握り返してくれたのはなんだったのか未だに分からないけれど、でもそれは怖いものでないことは理解している。

 だってあのとき、安心したのだから。



−終−

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