一章 第一話 腐敗
剣と剣がぶつかる音。
靴底と大地が擦れ合う音。
人と人とが争う鼓動の音。
誰もが望む全てがそこにあった。
「"リフレクション"!!ノイさん、弾いた魔法の属性を奪って!」
「任せなエリスさん!"転変の短鎚"《アルマ・メイス》、魔を砕き奪い取れ!!」
「老体で無理しますね〜ノイさん。おっと、危ない。"鋭骨ノ牢獄"、鳥さん!俺ごとやっちゃって!!」
「了解ですひぷさん。"エクスプロード・フレア"!!兄さん!残りを頼みます!!」
「おいおいマスター、俺だけ相手多くね?エリス!俺に強化魔法を。"エレクトリックパニッシュ"!!クッソ〜当たらねー!!」
弾ける魔法。
踊る剣劇。
揺れる衣装。
誰もが酔い痴れた一つの夢。
「"異空間移動"《ディメンションムーブ》あの骨の人、ほんっっっとに邪魔なんだけど!!あずさん何とか出来ない??」
「今は無理だ、麻痺を食らった、ジア助けてくれ」
「舐めプはやめて下さいあず!!分身使えば反撃できるはずっ!!"鮮血の盾"」
「あわわわわわわわ!!どうしましょうどうしましょう!!私の魔法が全部弾かれて吸収されちゃって、あーもー!!"ポイズンキューブ"!!」
「ぎゃーーーーー!!!デリちゃん眼瞑って魔法撃たないで!!うぉわぁぁああ、なんで黒幕さんこんな強いのよ〜〜〜!!"火事場の馬鹿力"《ピンチ・ハイ》やっぱり逃げるが勝ちぃ〜〜〜!!!」
心を潤し。
技を磨き。
体を浸す。
そうして誰もが皆世界に溶け込んでいた。
『さぁ、今夜のギルドバトルは超絶好カード!!急速に力を付け、今やトップギルドの仲間入り!!大量のファンを抱える新進気鋭の実力派ギルド"グリム=ロック"!!』
『そしてそして、対するはまさに神出鬼没!!今まで何処に潜んでいたのか!?轟く悪名、絶大なる脅威!!個々の力で戦わず、鮮やかなチームプレーが今日もリングを飾る!!湖畔の歌姫"Lorelei"!!」
二人の女性マイクパフォーマーが通る声と際どい衣装で観客を沸かせている。
もちろん沸き上がるプレイヤーの大半はリング上の戦いに目が釘付けだった。
大半はね………。
「いやぁ、今日もアリスちゃんは可愛いな〜!!彼女がグリム側って知ってたら向こうの席取ったのによ〜」
「バカ言え!!こっちのクリスちゃんのが可愛いに決まってるだろ?ま、お前みたいなロリコンにはわからないかな」
正直、どうでもいいから私を挟んでそんなくだらない話をしないで欲しい。
リング上の乱戦は互角の状態が続き、最終フェイズの半分まで差し掛かっていた。
「やはり、あの人達が全力で戦うには狭すぎますね」
"天地天変"《てんちてんぺん》ノイジー老師のテュ=ポーンでは闘技場自体が吹き飛ぶ恐れがありますし、ヒュプノスさんのイザベラが入るにはフィールドが狭い。
現在ローレライはエリスさんのURシルヴィア、鳥であるさんのURエキドナ、ヒーさんのURエクス=マキナが顕現している。
グリムはあずきんさんのURジャバウォック以外全てが召喚され戦っていた。
このゲームにおいて"光魔"《イリュミナ》が召喚されている、いないでは使えるスキルや魔法の数と若干のステータスが異なる。
一体出せていないグリムと二体出せてないローレライではグリムの方が本来は有利。
微々たる差でもトップギルドとして名が上がるギルドの戦いでは大きな差になる。
「ヒュプノスさんは"龍種"《りゅうしゅ》持ち、アバター内にイザベラを隠してその力を使えますから相変わらずのメ○ルキングっぷりですけどね」
魔法の効果範囲を広げられないくらいで何もハンデにならないところを見ると今日の戦いは"現状"互角。
分析はここまでにして観戦に集中するとしよう。
「"時空間切断"《ディメンションエッジ》!何で部位欠損技なのに欠損どころかダメージ入らないのよっ!!チートよチート」
「俺がチートだったら何でもかんでも異空間に飛ばして自分もそこに逃げられる君も相当なチーターだよ。"不可思議"な子に構ってるより確実に仕留められる人を先に潰そうかな」
「やってみるといいよ無駄骨君。ウチの"赤騎士"が相手だ」
「……君ね、今日手抜きが過ぎるよあず。まぁ、そう指示を出したのは私なのだけど。来たまえヒュプノス氏!引導を渡してやる"ハートレット・クイーン"!!」
『−−−妾に指図とは偉くなったものですね近衛風情が−−−』
『全く、面倒な奴に目をつけられたものだねヒュプノス。アレの相手は私がしよう……』
『骨のお姉さん!!邪魔はさせないニャ〜〜〜!!ニャッ!?フギャ〜〜〜〜………』
『あらら〜??何かとっても可愛い物を吹っ飛ばした気がしたわ〜。それよりエキドナちゃん、少し手を貸してくれないかしら〜?』
『あ、あの!!そろそろお茶会のお時間です!!皆さまお席にっ!!』
『シルヴィア姉様、しばしお待ちを!お茶会には踊り子が必要よね!!少し踊りましょ、ウサギさんっ!!』
『あっは〜〜〜!!乱戦乱戦、堪りません!!あたくしも久々に帽子ではなく刃を持つと致しましょうかね!!』
『〔なんかへんなお兄ちゃんだね!!あははははははっ!!当たらないよーだ!!〕[腑抜けた太刀筋よ。
「"マッドハッター"!!そこですわ!!」
「さあさあ、そこのメガネのお嬢さん!!俺と遊んでくれよっと、ん??居ない?」
「デリちゃん、もう大丈夫!!まったく油断も隙も無いね黒幕さん。ウチのヒーラーはやらせないの!!"ラビットスピード"!!」
バトル終盤の乱闘。
周囲の観戦客から見たらただドタバタと戦っているだけに映るだろう。
だが、プレイヤーも光魔も選択ミス一つで敗北となる様な戦いに挑んでいる。
目に見える部分では軽口を叩き、目に見えない部分で死闘は繰り広げられていたんだ。
新進気鋭のグリム=ロック。
赤き聖騎士、マスター《ファンタジア》。
血を司る女王URハートレット・クイーンの騎士。
彼は全体の行動把握と自身の防御、光魔の制御を同時に行なっている。
「私の結界にも限界が近い。クイーン!!あずを支援してくれ」
次に副官、聖域の
光属性の"龍種"URジャバウォックの主。
彼女(中身は男)はファンタジアの指示で殆どの攻撃はせず、この乱戦の中で体力とMPの温存をしてた。
「この面子相手に温存なんて、馬鹿げてるだろっ!!」
異次元の
時空間を操るURチェシャを扱う少女はそのスキルの使用回数制限とMPの消費量を計算して攻撃、防御、回避を行なっている。
「ディメンションスライサー!!!チェシャ、回避手伝って!!チェシャ!?あの子どこ行ったのよ!!!」
狂乱の
切断のスキルでトリッキーな攻撃を繰り出すURマッドハッターの相棒。
彼女はギルドのヒーラーとして回復魔法と支援魔法で戦線を支えていた。
「ジアさんにヒール!!マッドハッターは交戦中って事は、私も戦わないとですよね……」
最後に、世界最速の
あらゆるスピードを持って相手を翻弄するURホワイト・キャロルの持ち主。
彼女は遊撃手として相手の目に止まらない速さでリングを駆け回り攻撃と回避支援を行なっていた。
「そろそろ降ろすよデリちゃん!!ウチは相手マスターの首を取りに行くから!!」
ギルドメンバー総勢五名。
このバトル、実質四人で相手の猛攻を受けていたんだ。
「化け物揃いの
その物語の語部、Lorelei。
爆炎と妖炎の剣士、マスター《鳥である》。
魅了の炎を操る魔蛇URエキドナを従える双剣の使い手。
魅了のバッドステータスを与えられる魔法攻撃を主体に戦う。
「流石に魔法は対策されてますよね……。それなら剣で、力で勝つ!!」
迅雷と呪言の
攻撃を当てさえすれば相手のステータス値をごちゃ混ぜに出来る悪夢の能力を持って敵を翻弄する。
「そーらそら逃げないと大変な事になっちゃうよー。逃がさないんだけどな」
凛風の
"精霊種"の中で回復に特化したURシルヴィアの所有者にだけ許されたパッシブスキル"時限式魔法陣"の特性により魔法を任意の空間にセットしてフィールドを使い仲間をフォローする凄腕ヒーラー。
「ヒプさん、10秒後に十歩後ろに下がって!回復魔法置いといたから!」
鉄壁の
全ての
「姉さんナイスタイミンッ!!固定ダメばっかで嫌になるね本当〜〜〜」
天地天変の騎士"Noigy"。
専用武器"アルマメイス"で攻撃又は弾いた物の属性を自身に付与する変幻の老兵。
所持するURは"災害"と恐れられる強力な攻撃力を持つ悪魔の王テュ=ポーン。
それと………スレイプニル。
本来ならオーディンの馬であるはずが何故かテュ=ポーンが跨っているというバグ的なそれがノイジー老師に従っている。
「若いもんは動きのキレが違うね、本当さっ!!!」
このゲームでの身体能力はパラメータに依存し、力やスピードは現実以上のもの。
だけど感覚は自身に依存する。
「関節痛や筋肉痛が無いとはいえ、歳の感覚には勝てませんか老師。一番感覚が冴えているのはやはりあずさんですね。このギルドバトル中相手の攻撃全て避けている。わざと当たった麻痺の魔法以外はね」
『さぁ!!最終セットも残り二分!!どちらも一歩も譲らずらずにサドンデスな予感がするねー!!!』
残り二分のアナウンスは意味を成していなかった。
見る者が見れば結果が出ていたからだ。
「この流れ、波はどっちが立てたんでしょうね。どちらにせよこの先に答えがあって、僕が見たい物があると確信していますよ」
『バトルしゅーりょー!!!両ギルド、ドロー!!!!よってこれより1on1のサドンデスに移行しまーっす!!』
『両ギルドのマスターは参加選手を宣言して下さい!!』
両陣営のパフォーマーが特別最終戦サドンデスを宣言する。
そして各ギルドマスターは迷い無く戦士を送り出す。
「あず、お願いします」
「ひぷさん、勝って下さい」
「了解だジア。蹂躙しよう」
「まって!まってマスター、俺に勝てとか難しい事言うね!!」
「あ、ごめんなさいひぷさん。もう宣言しちゃったもので」
『選手決定ーーー!!!!まずはグリム=ロックから"
『そしてそして!!Loreleiから"無駄骨"Hypnos!!!両者リングへ!!』
ヒュプノスさんは何やら抗議をしてた様に見えましたが、無慈悲にも決定はなされ電光掲示板には二人の二つ名とプレイヤーネームが掲げられた。
「それにしてもあの二つ名は、ふふふ」
いつ聞いても笑ってしまう。
一人は力強く、一人は嫌々リング中央へと進んで行く。
「サドンデスは初めてだ。お手柔らかに頼むよ無駄骨君」
「それはこっちの台詞だよ。頼むから本気出さないでエインフェリアル」
「それは無理な相談だっ!!」
『『最終戦サドンデス!!!開始!!!』』
戦いの火蓋が落ち、最初の一歩を踏み出したのはあずさんだった。
「まずは小手調べといこう、ジャバウォック。"繋命分身"《ウル・アルバタラ》」
「複数相手くらいなら余裕かな。沈め、イザベラ!!」
踏み出した足から幾重にもブレて十人に分身する千兵。
専用武器である
銃を使わず体術で仕掛けるあずさんが五人。
並のプレイヤーなら、いやトッププレイヤーの中でも勝負になるのは数人だろう。
「やっぱズルいよね〜、格好良さ半端なっ!!」
その数人の一人。
どんな攻撃も、戦術も全てが無駄。
五人の銃撃も、五人の打撃も無駄。
一万を超えるHPを持つ防御力最強プレイヤーに対して有効なのは毒系のバッドステータスか固定ダメージを与えられるスキルのみ。
「これだけ仕掛けてノーダメとか相変わらずの鉄壁だね。攻撃力も相変わらずだけど」
攻撃力の大半を防御力にしているヒュプノスさんは相手に与えられるダメージが著しく少ない。
新人プレイヤーにそこそこの武器を持たせたくらいしかないとか。
「まぁ現状、負けは無くても勝てもしないよね〜予想通り」
本人も最初から勝ちを見据えていなさそうな戦い方をしている。
片手で操る太刀で弾丸を弾き、拳打を受ける。
「おいおい、つまんねー試合だな」
「俺達が見に来たのはこんな甘っちょろい試合じゃねーぞー!!」
「死合え死合え!!やっちまえ千兵!!」
両者攻め手に欠ける試合は会場の熱を冷ましていた。
絶え間なく攻撃を仕掛ける方も凌ぐ方もトッププレイヤーと呼ばれるに恥じない技量を見せてるのに………。
かなしみめろんぱん。〜実家のロバと15人の仲間達〜 入美 わき @Hypnos
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