異世界転生抑止力
猫ひつじ
異世界転送
異世界転生者
それは文字通り現実世界で死に、神に慈悲を与えられ元いた世界とは異なる世界に転生する者のことである。
ここだけならまぁさほど問題はないだろう。
だが問題はその異世界転生者にはもれなく強大な力...いわゆる「チート能力」というものを持っている。
1人で世界を統べることも滅ぼすこともできるような力を。
そうなるととても都合が悪くなる。
なぜかと言うのにはまずこの世界のシステムを説明しなければならない。
この世界というのは林檎の木のようなものだ、一つの歴史を幹として様々な平行世界、枝をつくる、そしてその結果出来るのが実。つまり世界を動かすためのエネルギーだ。
充分なエネルギーが得られなくなった世界は枯れ落ち、滅ぶ。そしてまた新しい分岐点から世界を作る。そういったいわば一つのシステムのようなものなのだ。
ではここに異世界転生者が入り込むとどうなるか?
そこを力で統べて王になれば世界が滅ぶ運命まで変えてしまい、存続する予定のない世界まで存続させてしまうだろう。
そうなるとエネルギーはまともに得られないのに使う量だけ増えていって枯渇していく。
そこを力で滅ぼせば予定のない世界が滅んでしまい、いつかエネルギーが底を尽きてしまうだろう。
そうなるととても、とても困る。
どうにかして止めようと試みても転生者は増える一方だった。
さらに現実世界で死なないように手助けをしても彼等は猫を助けるためだの、ショック死だので勝手に死んでいくためいたちごっこだ。そもそも誰が転生するかしないかもわからないからどうしようもない。
悩んだ末私が出した策は
「滅ぼすべき異世界転生者がいる世界に自分のアバターを送り込み、その転生者を抹殺。後に世界を滅ぼす。」
という振り出し案だった。
私はそこからひたすらに作った、試作品を気が遠くなるほど。
そしてシュミレートを繰り返し、いかなる異世界転生者にも勝てる自分のアバターを作り出した。
かかった時間は人間の言葉で言うとおおよそ1284年、といっても人間の流れる時間と私の流れる時間とは異なるものなので、君たちの時間に直すとざっと7日ほどか。
向こうの世界では個体名も必要になる。
そう考えた私はこの私のアバターの個体名をアルマと名付けた。人間のいう終末戦争を意味するアルマゲドンから取ったネーミングだ。いいセンスだろう?
私?私は人間風に言う世界システムさ、個体名なぞ必要ないだろう。なんせ誰に呼ばれることもない。
早速起動する、目を開けて起動したことを確認、設定を開始する。
『お前の個体名はアルマだ。
お前は我が分身として異世界へ赴き、そこで異世界転生者を抹殺。
その後その世界を滅ぼすのが使命だ。良いな?』
我れながら決まった。
そう思いドヤ顔(顔が無いので出来ないが)をしていると無機質な音でアルマが声を発した。
「了解、これより任務を遂行します。」
なんとも頼もしい。
だが少し危惧するべきことがある。
感情という点だ。
人間の話でよくあるのが「無機質な人形に感情を芽生えさせ味方につける」
または「感情を理解できない相手に対して怒りや覚悟といった感情で突発的にパワーアップし敵を砕く」...といったパターンである。
万に一つもアルマにそんな事があり得るとは思えないが相手は人間...まして異世界転生者だ。そうならない為にも申し訳程度の、こちらを裏切ることがない程度に感情をつけるとしよう。まぁ裏切られて私が死んだとしても向こう諸共滅びるだけだが。
...よし、前置きが長くなってしまったが早速アルマを異世界へ送るとしよう、さしずめ異世界転生ならぬ異世界転送だな。
私の視点をアルマと共有できるモードに変更、アルマが異世界へ飛び込む。
さて、ここから文字通り世界を救うための物語が始まるわけだ。
異世界転生抑止力 猫ひつじ @nekohituji
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