0と1の魂
亀虫
夢のマッスィーン
「よしっ、ついに完成した! 夢のマッスィーンが!」
科学者は拳を天に突き上げて喜びを表した。彼が長年夢見ていた「オンラインゲームの世界に魂を移し、そこで生活できる」装置をついに発明したのだ。
自らの魂をこの装置によって0と1で表現されるデータに変換し、ゲームのサーバーに送り込む。データとなった魂はサーバー上に存在する自分の
魂をゲームに移している間、一時的に脳以外の器官は時が止まったように停止する。装置が起動している限り、肉体を維持するための一切の行動が不要だ。食事をしなくても腹は減らず、老化もせず肉体が腐り果てることもない。排泄も
「よぉーし! さっそくゲームの世界にダイブだ!」
科学者はヘルメットのような装置を頭にすっぽりとかぶった。彼が椅子についているボタンをひとつ押すと、音を立てて装置全体に電流が走り、意識が遠のいた。
科学者はゆっくりと目を開けた。ゲームで見慣れた景色。
「よっしゃ、大成功!」
科学者は声を上げた。自分のアバターと同じ声だった。彼はこれから始まる夢のような生活に胸を躍らせた。
喜んだのも束の間、視界の上部にテロップが流れた。運営からのお知らせだ。
「五分後に緊急メンテナンスを開始します。ログインしている方はすみやかにログアウトを……」
これを見て科学者の顔は青くなった。さて、この装置には致命的な欠陥がある。一旦移した魂を元に戻す機能がないのだ。そのためサーバーが停止すると彼の魂は帰ることができず、サーバーに囚われたままゲームと一緒に停止してしまう。
科学者はこの欠陥を知っていて放置していた。ゲームの世界に入ったらもう戻ってくる気はなく、一生そこで暮らすつもりだった。だが、メンテナンスという停止時間があることをすっかり忘れていた。
「どうしよう、どうしよう……」
想定外の事態に科学者は慌てふためいた。しかし講ずる手段はなく、五分後ゲームと共に彼の視界も暗転した。
後日、かのゲームの公式サイトにはこう記されていた。
「極めて重大な不具合が見つかり、サービスの継続が困難な状態となりました。誠に申し訳ありませんが、本日をもってサービス終了とさせていただきます。これまでご
もちろん、彼がこの告知を見ることはなかった。
0と1の魂 亀虫 @kame_mushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます