『最後の五分』エントリー作品。

アルアール

第1話

人生の中で睡眠に使われるのは凡そ三分の一。老若男女、誰であってもそれは変わらない。日が登れば起き、

沈めば眠る。そんな生活を脱却した現代を生きる我々がそうであるなら、昔の人はきっと人生の半分は寝ていたんだろう。



ーーーねぇ、起きてってば。



雀のさえずりが聞こえ、そしてカーテンの隙間から溢れ日が差し込む一室。


可愛らしい声が布団で隔てられた向こうから聞こえる。

いつも通り、初めは優しく声をかけてくる君。



誰もが一度は疑問に思ったことがあるはずだ。なぜ1日は24時間なのかと。

春、夏、秋、冬、どんな季節でさえ朝のこの時間に、気持ちよく起きれた事は数える程もない。


大きめのベットに対し、真ん中で猫の様に小さく丸まっている僕。

いつのまにか消えていた喪失感を埋める様に、隣にあった枕をぎゅっと握りしめていた。



ーーーじゃぁ布団とっちゃうよ?



いつも通り、呼んでも起きない僕に呆れる君。



生まれたての子供の仕事は寝て、食べて、成長する事。5、10、15歳。そして20歳。歳を重ねるにつれて減っていく睡眠時間。

僕だって眠りたい。5時間? だめ、少ない。 6時間? まだまだ。じゃぁ7時間? もうちょっとかな。

そう結局は、寝起きじゃ欲しい睡眠時間なんて決められないさ。

だって、眠いんだから。



ーーーほら、起きなってば。



いつも通り、僕を隠す布団を容赦なく剥ぎ取る君。


いつも通り、そう、これも何十、何百と繰り返した日常。



急に瞼から光を感じて目を開けると、いつもの君がいた。

怒った様な、呆れた様な、そして仕方ないって諦めた様な。



あぁ、怒ってるなぁ。

でも、眠いんだから仕方ないよね。

最後だから許して。



僕は乾いた唇を薄っすらと開けて声を出す。



「後五分」



ってね。






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