恋が終わるまで……

瀬川

恋が終わるまで……

 私は今から失恋する。


 今日まで大事に大事に育ててきたものを、殺してしまう。

 きっと恋心に寿命があるとしたら、私のはあと残りわずかしかない。



「おめでとうございます!」


「卒業しても忘れないでくださいね!」


「先輩!」


 たくさんの人に囲まれて、笑っている中島先輩。その姿を見る事が出来るのは、もう終わりだなんて信じたくはなかった。


 だからこそ、今日この日に告白する事に決めたんだけど。


 すでに私は、先輩に校舎裏に来てもらうように伝えている。あとは、先輩が来てくれるのを待つだけ。

 彼の姿をじっくりと焼き付けてから、私は校舎裏へと足を運ぶ。




 ちゃんと、先輩来てくれるかな。

 あんなに人に囲まれていたんだから、きっと来るのも遅くなるんだろうな。


 私は校舎の壁に寄りかかりながら、ぼーっと空を眺めていた。




「ごめんごめん!遅くなった!」


 しばらくそうしていると、先輩の声が聞こえてくる。急いできてくれたみたいで、息が切れていた。

 それを見て、嬉しさと緊張で顔がこわばってしまう。


 それでも覚悟はすでに出来ていた。


「先輩、卒業おめでとうございます。」


「ああ、ありがとう。進藤と会えなくなるなんて寂しくなるな。」


 噺のきっかけに、無難にお祝いから始めた。

 そうすれば先輩は優しいから、私が嬉しくなる事を言ってくれる。


 こういう所を好きになったんだよな。

 私は幸せな気持ちを噛みしめながら、息を大きく吸った。



「実は、お話があって。」


「ん?何?」


 緊張で声が震えた。




 ああ、これで終わっちゃうんだ。

 さようなら、私の恋心。


 内心で、そう呟いて口を開いた。



「好きです。」




「ずっとずっと、先輩の事が好きでした。」



 とうとう言ってしまった。

 私は、今更後悔に押しつぶされてしまいそうになる。


 それでも、もう取り消せない。

 あとは、先輩に振られて終わり。

 きっと先輩は優しいから、傷つけないようにしてくれるはず。


 分かってはいても、それでも怖くて私は下を向いた。




 先輩はしばらく何も言ってくれなかった。

 どう断るか考えているんだ。

 早く、早く、この恋を終わらせて。


 時間が経つにつれて、勝手に涙があふれそうになる。

 泣いたって、先輩を困らせるだけだ。

 だから必死に我慢していた。




「……れも。」


 数十秒経って、ようやく先輩の声が聞こえて来た。

 だけど小さすぎて、私は何を言ったのか分からない。




「俺も、好き。」


 私の耳はおかしくなってしまったみたいだ。

 今度はちゃんと聞こえて来た言葉。それは予想と全く違う。


 信じられなくて涙も引っ込み、顔を上げた。

 そこには顔を真っ赤にさせて、口元を手で覆っている先輩の姿があった。

 目が合うと、はにかんで笑ってくれる。


 その瞬間、私も一気に顔が熱くなった。

 まさか本当に、先輩も私の事が好きと言ってくれたのか。



 信じられなかった。

 でもこれは現実なんだ。





 どうやらこの恋は、まだ終わらせなくても良いらしい。

 私はこれから始まる先輩との時間に、胸を高鳴らせながら彼に笑い返した。



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恋が終わるまで…… 瀬川 @segawa08

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