仮想現実、誘拐事件。

秋雨あきら

第1話


 当動画は、過去の生放送をアーカイブ化したものです。



α:

「皆さんどうも、こんちゃす。スーパーハカーの、アルファでーす」


β:

「右に同じく、ベーター」



「動画の音声、調整できてっか? おけまるー。んじゃ、今日も某社のDBと、その他諸々にお邪魔して、ちょいとおもしろい企画やってくぜ。あ、その前に、バーチャルYouTuberって知ってるか?」


「知ってっしー?」


「おめぇには聞いてねぇ。まぁそのVTuberに、通称〝4極星〟って呼ばれる人気の連中がいてな。その4名をな――ほいっ」


 ブォン。


「ご覧の通り、俺らのVR動画ん中に、ご招ターイ!」


「ウェーイ! 方法は企業秘密で。あと繰り返すけど、俺ら人知を超えた、スーパーハカーなんで、こうやってVTuberを盗んじまう時点で、このモデルの痕跡を指先一つで消すのも、朝飯前よ」


「っべーわ、俺ら、マジべーわ。で、消すの?」


「いや、俺らは自称、世界初のエンターテイナーだ。ここはいっちょ、世界初のVTuber誘拐犯を名乗っていくぜ」


「中の人がおらんがな」


「中身とか興味ねーし。俺らはあくまでも、このガワに対して〝身代金〟を要求するのさ」


「身代金? このVTuberを使って配信してる企業から?」


「それもある。が、俺たちが本当に要求する先は、視聴者さ」


「アルファ、どういうことだってばよ」


「聞けよ、ベータ。この動画を見てる視聴者の人間もな。俺らは明日の午後12時にもう一度、この光景を収めたライブ動画を配信する。その時に〝放げ銭〟とも呼ばれる、ハイパーチャット機能を使い、視聴者から、VTuber4名の身代金を要求する」


「いくら?」


「2億。合計8億」


「ヤバくね?」


「マジ味。VTuber1体につき、身代金2億。それとライブ開始から5分経過した時点で、条件を達成できなければ、4人のうち誰かをデリートする」


「さっき、物騒な事しないとか言ってなかった?」


「エンタメならいいんだよ。ちなデリートする人数は、2億不足につき1体な。つまり6億不足なら、3体のVTuberがこの世から消える」


「つまりライブ5分で、8億稼ぐって?」


「十分だろ。明日まで丸1日あるんだぜ。クレカを持ってないやつも、最寄りのコンビニでATM使って金下ろして、プリベイトに引き換える時間ぐらいあるだろ? ついでにパン買ってこい」


「しっかしクレイジーだぜ。いくらなんでも、2億かよ」


「んなことねぇよ。俺たちが身代金を要求する相手は1人じゃない。対象のファンの皆さま全員なんだ。なぁそうだろ。アイドルファンってのは、いつまでも自分の〝推し〟が活躍するのを見届けたいんだろ? だからこれは、千載一遇のチャンスだぜ。お前らの投資が、アイドルを救う。強制はしない。ただそこに〝命が宿っている〟と思うやつだけ払えばいい」


「違ぇねぇ。じゃあ今日の配信はここまでだ。明日を楽しみに待ってるぜ、バイバーイ、人間の諸君」

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仮想現実、誘拐事件。 秋雨あきら @shimaris515

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