ぐるぐる

@usako_usake

美咲とかすみ

「あのさ。ちょっと前に断捨離ってのが流行ったじゃない?」


 会社のお昼休みにランチに出かけた時、同期の美咲が突然言い出した。

 何故、急に「断捨離」なのだろうと、私は首を傾げた。


 私の不思議そうな表情に気がついたのだろう。

 美咲は、「ほら、さっき買ったこの雑誌に載ってるんだけどさ」と、1冊の週刊誌を私の前に差し出した。


「さっき、コンビニで買ってたのって『週刊ヨンデー毎朝』なんだ」

「そうだよ」

「え~……何だか意外~! こういうの読むんだぁ~!」

「ファッション誌ばっかり見てると思ってた訳?」

「うん。付録付いたのを良く買ってるじゃん」

「まぁね。でもさ、私だって、こういうのを読むことあるよ。……いや、白状するとさ、電車の中吊り広告を見て買ったんだけどね」

「じゃ、衝動買いな訳?」

「うーん、ちょっと違うなぁ。タイトルに惹かれて買ったんだよね」


 私は都バス通勤だから中吊り広告にはあまり縁が無いけど、埼玉県内から電車通勤している美咲は、『特集!今こそ断捨離!』と書かれた中吊り広告を見て、「これだ!!」と直感して買ったらしい。


「あんまり掃除は好きじゃないんだけどさ。この際、この雑誌を参考にして、いらない物といる物を整理しようと思うんだよね」

「……感心、感心」

「ちょ……もう! 茶化さないでよ。とにかく、雑誌の付録とかゴチャゴチャしてるし、部屋が手狭になってさぁ……」

「ふーん……」

 私が気のない返事をすると、美咲は、「かすみ……無関心を決め込んでるけど、あんたも、整理整頓が苦手じゃなかったっけ?」と、笑いながら私の顔を覗き込んだ。


「う……そうなんだよね」


 "整理整頓”を強調されて、私は苦笑いを浮かべた。

 大体、そんな事、言われなくたって分かっている。

 実家暮らしから一人暮らしにチャレンジした時、内見の時はがらんどう状態だったからから、結構広いワンルームだと思っていたのだけど……。

 イトリでちょっとした家具を買い、引越しをして半年もすると、部屋の至るところにモノが溢れかえった。

 誰かに見られる事も無いから、服は脱ぎっぱなし。

 私には分るけど、他人が見たら、どれがキレイでどれがキタナイか判別不能だと思う。

 ゆっくり寛げるスペースなんか無いから、ベッド周りの、ほんの少しの空間だけで生活するようになっていた。

 ヘタをしたら、私の部屋は“汚部屋”……。

 良く、夕方からのテレビのワイドショーで取り上げられている、「片付けられない女特集」とか「街角のゴミ屋敷特集」みたいな感じになっていたのだ。

 先日、私の様子を見に来た母は呆れ返って、「あんた……。女を捨てる気なの!? ……なんなの、この臭いは!!」と、鼻息の荒い鬼の形相で、部屋に上がりもせずに帰ってしまった。

 持って来た手土産をそのまま持ち帰ったぐらいだから、相当頭にきたのだろう。

 慌ててメールを打ったけど、返信が全く無い。

 これには、「マズイ。相当怒ってたもんなぁ……。超サイアク……」と、改めて自分の雑多な部屋を見渡して、ガックリしたものだ。


 美咲に言われるまでもなく、私も断捨離しなくてはいけない……。

 このままではヤバイって、アタマの片隅でサイレンが鳴っていた。



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