少女ゲリラ

 ある夏の夜、アタシは街に元々あったスピーカーを通して敵に向かっての宣戦布告をした。


『この街は、お前達の縄張りなどではない!我々のモノだ!五分だけ時間をやる、その間に去らない者は命ないものと心しろっ』


 今までアタシ達はひっそりと動いていた、全くと言っていいほど接点のない敵からすれば、数少ないこの街の住人はあまり外に出ようとしない様に見えていたと思う。少しずつアタシ達は地下へ地下へと移動してた、そのかわりに元々地下で暮らしていた殺し屋集団にはちょっとずつ地上に出て暮らすようにしてもらった、その上で戦いをより有利にするため地理を覚え直してもらったのだけど、思いのほかこの方法が殺し屋たちに人気で楽しめたらしい。結果、皆が順調にそれぞれの動きかたを理解して、何ができるか、何をしたいかを考える時間が持てたと笑ってた。


 誰かが遠くでコッチを馬鹿にしたような話し方でがなり立てる声が響いた、ちなみに補足すると既にカウントダウンは始まってるから、敵にはさっさと決断して動いてもらいたいモンだ。なにかと思って声がした方向を見てみれば、なんか冴えないチンチクリンが中指を立ててアタシを煽ろうとしてるっぽい、ハッキリした殺意を抱いたところで彼の命はあと十秒で終わると決まった。アタシは、こういうしょうもない煽りにはドーンと乗るタイプなのだ、悪いのは煽ったヤツであって、決してアタシではない。大した人数じゃないとでも思ってるんだろうか、残念ながら大人数だよ覚悟しやがれ。


「カウントダウン残り五秒、三、二、一…どーぞっ!」


 メリッサ…[どーぞ]って何だよ[どーぞ]って…街の境を縁取ふちどるように地下から壁がせり上がってくるのを確認して、床を蹴った。ココは元からそこそこ大きな街だ、この戦争には全152部隊・少女ばかり総員7600人が参戦する。全員凶悪犯罪者、人に呼ばせるならアタシ達は少女ゲリラだ。さっき下品に中指立ててたチンチクリンのすぐ近くに着地すると、彼のコメカミに銃口を向けて躊躇なく引き金をひく。銃声と同時くらいに周囲が騒然として、アタシの行動に大人の男たちの理解が追いつかないみたいだった。


 ここへ飛んでくる前に視認した、街を囲む形でせり上がってきていた壁の内側にはあらかじめ爆弾をたっぷり仕掛けておいた、コッチが起爆装置を押せば、内側から逃げようとして集まった人間たちを木っ端微塵にできるので、そろそろ良い頃合だろうと思ってさっさとボタンを押す。混乱する男たちを見て、それぞれに分担してあった役割を果たすために動き始めたアタシ達は、スレ違いザマに視線を合わせて頷き合った。


「やるぞ」


「了解」


『了解』


 ここで全員が通信機をオンにして一世一代の戦争の幕開きだ、メリッサからの報告を聞いてアタシが指示を出す、想定外のことを除いて基本的にはこの繰り返しになる。まずは近距離戦闘部隊の出番、中距離戦闘部隊が狙いを定めてる間を埋めるために、目につく敵を片っ端から始末するよう命じてある、各ブロックはアルファベットと数字で構成されてるから、あらかじめ爆弾が設置されてるのを分かっているブロックからは離れて戦わないといけないけど、場所を迷ったときはメリッサたち情報屋部隊に聞けば良いので本当に楽だ、戦闘に集中できる。新しく仕掛けられたものに関してはその都度、情報屋に報告を入れるようにした。


 暗黒街を住処としてる男たちの怒号が飛び交っている中、アタシ達はワザと砂ぼこりを舞上げながら移動する。夜だからって油断はしない、夜に慣れてるのはなにもアタシ達だけじゃなくて敵もだろうから、視界を不明瞭にできるんなら何だって使うし砂は立派なスモークとして使えると思う。銃を持っててもナイフを持っててもアタシ達には関係ない、男たちの攻撃をかわしながら距離を詰めて素早く始末していく。


「こちらリューヴォ、中距離戦闘部隊・爆撃部隊・アシスト部隊、行けるか」


『こちら中距離戦闘部隊総括ルーチェ、行けるよっ』


『こちらアシスト部隊総括エマ、すでに待機中です』


『こちら爆撃部隊総括メア、行けまーす』


「よし行けっ!近距離戦闘部隊は散って敵のスナイパーを狙うぞ!」


『近距離戦闘部隊総括リアナ了解!おい行くぞテメェら!!』


 皆が掛け合う声を聞きながら、アタシはひと足早く前線から引き上げて住み慣れた高い物見やぐらへと移動していく、ここには街全体を見渡せるように取り付けたカメラから送られてくる映像を表示できるモニターが置いてある。事前に、アタシ達は戦闘時間を計算して動き方を決めてた、時間をかけてどんな奴がドコに居るかを調べ上げたんだ、その結果として急襲に向いてる形の作戦に仕上がった。今はちょうどスナイパー達のための時間だ、飛び交う弾丸が慌てふためく敵の頭を次々に撃ち抜いていく様子が見えるしモニターにも映し出される、唇の端が自然と吊り上がってしまうのを思わず手で押さえた。縄張り争いを繰り広げてた奴等は思いもしなかっただろう、この街を支えるために生きてる少女たちが実際にいて、犯罪に染まってても街を守るために手を取り合って襲撃してくるなんて。


 ここから加わる爆撃部隊はシミュレーションで使った手順に従って、地図で確認しながら爆破メインで攻撃することになってる。ルーチェ率いる中距離戦闘部隊は一通り敵を撃ち抜くと、一旦その場を離れて再び準備に取り掛かる。それをしっかり確認したアタシが、この物見やぐらの上から爆撃部隊に指示を出すために地図をのぞき込む体勢でスタンバイした時、ナイスタイミングでメリッサの声が通信機から聞こえた。


『敵スナイパー、ほぼ全員沈黙』


「了解、爆撃部隊攻撃開始!残すなよっ!」


『全員!起爆装置オン!!』


 この街に、巨大な爆破音が響き渡った。この世界で暮らし始めてまだ十数年だけどこんな光景は初めて見る、作戦をたてたアタシが言うのもなんだけど街中がメチャクチャだ、でも嫌じゃない、戦った証拠であり、ゲリラ戦が繰り広げられた事のあかしだ。敵の生存者が居ないか確認するようにリアナ率いる近距離戦闘部隊に命じたが、アタシが確認できる範囲に敵生存者はいなかったから、その範囲外にいる生き残りは多くても数人程度だと思う。何人かいたら一人だけ連れてくるように言ってあった、この街を誰が勝ち取ったのか、それは生存者が語って証明しなきゃいけないことだ。


 数時間かけて探したけど敵生存者はいなかった、戦争が始まる前に捕まえてた一人を除いては。上下黒いスーツ姿の男の手首にしっかりとビデオレターを縛りつけ、街の外へ出すべく連れて行ってやったらそいつはアタシを振り返って震えながら口を開いた。凄く怯えながら聞かれたのは[お前は鬼か]だったので[その通りさ二度と来るな]と言い聞かせることになった。やっと手に入れた自由それと確かな希望、皆が好きなことをやれる、闇の人間でもそれなりに夢を持てる場所になった。


 ※※※


 あの日から、ココは[終わりの街]と呼ばれている。

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終わりの街 江戸端 禧丞 @lojiurabbit

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