鶏冠病

安良巻祐介

 

 頭の形が知らないうちに変わるのである。瘤ができて、呆けているうちにちょうど鶏の鶏冠に似た形になってきて、そしてこうこうと鳴くようになる。人の言葉は変わらず話せるけれども、意味があまり通じなくなる。家族は悲しんで、大抵の場合早くに病院へ入れてしまう。辛く苦しい鶏冠人間で病棟は一杯になり、暁に合わせて頭に瘤の山が出来た患者のこうこうという大合唱が建物を揺るがす。やがてその声に耐えられなくなって、医者も看護士も身代わりの木偶をだけ置いてみんな逃げてしまった。木偶はごく簡単な蔓發条つるばね仕掛けに従って、鶏冠人間たちに給餌をする。水と単純な穀物屑しか与えられないものだから、鶏冠人間たちはますます形がおかしくなって、とうとうみんな紅色の玉蜀黍みたいな肉腫が服を着ているばかりとなった。そんなでも朝になると声を合わせてこうこうこうと泣きわめく。時計もとうに壊れて止まった。欠けた頭で考えてみても、どれほど経ったかもうわからない。あおあおあと呻いてみても始まらない。近いうち、病院の建物にも鶏冠が生えてくるらしかった。…

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鶏冠病 安良巻祐介 @aramaki88

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