第41話 魔王と勇者 再びの激突

「セイントストライク!」


 俺が魔法で地面に設置した爆雷を小羽は空に飛んで回避し、そこで白い翼を広げて光のオーラを纏って突っ込んでくる。


「さすがにやるな。だが……! デモンウォール!」


 俺は悪魔の壁を起こして迎え撃つ。小羽は突破するが俺にとっては織り込み済みだ。

 抜けた直後の隙を狙って黒いビーム光線を放つ。小羽は剣を振って白いオーラで迎撃した。

 光と闇のエネルギーが暴れ狂い、フィリス達の張った魔法障壁を揺らした。


「魔王様の力、さすがに強い」


 フィリスはさらに魔力を強く練って障壁を維持する。

 誰もが息を呑んで見守っていた。明るい呑気な声援はもう止んでいた。

 勇者が接近して振るう剣を俺は杖で受け止める。すぐ間近で見る小羽の目。その目は自分の信念を持った揺らぎの無い自信に満ちた瞳だ。


「さすがは魔王、やっぱり強いね」

「言ったであろう。もう手加減はせんとな。以前のようにはいかんぞ!」

「あたしだってもう前とは違う!」


 小羽が素早い剣撃を繰り出してくる。あらゆる方向から迫ってくるような怒涛の連打だ。彼女も腕を上げている。


「やるようになったな、勇者」

「練習してきたからね」

「だが、速さだけで軽い。魔王は力でねじ伏せる!」


 俺は前方に闇のエネルギーのシールドを展開させると、あらゆる方向から迫ってきた小羽の剣撃を全て同時に防ぎ切った。

 小羽は男子とチャンバラごっこはしていたが盾の相手はしていなかった。驚いて一瞬止まる小羽の動き。魔王の前では致命的な隙だ。

 俺は小羽の剣を杖で跳ね上げると、がら空きとなった少女の小柄な胴体に闇の盾のエネルギーを拳に集中させた掌底を食らわした。激しい勢いで吹っ飛ぶ小羽の体。

 小学生を相手に大人げないと言われるかもしれないが、油断できる相手でない事は誰よりも俺が理解している。

 小羽は向こうの世界でも元気だが、こちらの世界ではさらに勇者の力を持っている。それは俺と同等のチート能力だ。


「すまんが、こちらはすでに一敗している身なんでな。加減はしてやれんのだ」

「いてて、こんな一撃を食らったのは久しぶりだよ」

「寸前で勢いを殺していたか。相変わらず身軽な奴だ」


 小羽は食らう寸前で回避していたようだ。完全には避けきれなかったが、ダメージを軽微で抑えていた。

 俺達は再び向かい合う。その時、観客席から声を発してきた奴がいた。


「魔王様!」


 勇者を警戒しつつそちらを見やると、ヒナミ達が委員長を連れてきていた。どうやら友達になれたようだ。そんな雰囲気がする。

 俺と友達になれないと意味がないのだが、喜ばしい事には違いない。

 改めて勇者と向かい合う。小羽は軽く微笑んで言った。


「長が来たようだね」

「ああ、これでますます無様を見せる訳にはいかなくなった」

「じゃあ、あたしはここで宣言をさせてもらうね」


 勇者は何を宣言するつもりなのだろうか。魔王の俺としては待ってやるのがセオリーというものだろうな。


「いいだろう。少しだけ待ってやる」


 俺が譲ってやると、小羽は手を振り上げて観客席のみんなに向かって言い放った。


「あたしが勝ったらこの学校は潰すことにしたよ! ここは魔王の居城だもの! 勇者のあたしが見過ごすわけにはいかない!」


 勇者のとんでもない発言に会場がどよめいた。みんなが驚いた顔をしている。

 俺だって驚いた。勇者ならば味方する者もいただろうに、思い切ったことをする奴である。

 俺は驚きながらも魔王の威厳を出さねばなと小羽の顔を見返した。


「驚いたな。本気でやるつもりなのか?」

「うん、もうこの学校は見て回ったしね」

「その為の時間だったのか。だが、させぬわ!」


 俺は無数の黒い雷球を放つ。小羽は白い槍を飛ばして貫いていった。広がる爆風。小細工は必要無い。俺はさらなる極大の魔法を紡ぐ。


「ヘルズフレイム!」

「ホーリーストーム!」


 激しい攻撃の押収にフィリス達の張っていた障壁が耐えられなくなってきた。ガタガタと揺れていた障壁はついに貫かれるように砕け散った。

 それに気づかぬ俺では無かった。小羽を相手にそちらに魔力を送る余裕が無かっただけだ。

 だが、さすがにまずいと判断し、障壁を維持する為に魔力を送った。


(ああ、これは負けたな)


 ここまで全力でも互角だったのだ。余計な事に力を回しては勝てるわけがなかった。俺は二敗目を覚悟するのだが……

 障壁に送る俺の黒い魔力に別の白い魔力が加わった。元を辿るとその場所に小羽がいた。


「正々堂々と手加減せずに戦うと言ったはずだよ」

「いい度胸だ。さすがは勇者!」


 二つの力を受けて障壁はより強固となって復元される。そして、魔王と勇者は再び強くぶつかりあった。

 世界がただ無数の白と黒に埋め尽くされていく。そして、俺の耳には確かに俺を応援する者達の声が届いていた。




 戦いはいつしか止んでいた。それが何分の事だったのか俺にはよく分からない。

 ただ気が付くと小羽が剣を落として膝を付いていた。


「ああ、負けた。あれだけ練習してきたのにお兄ちゃん強いよ」

「負けを認めるのか? 勇者のお前が」

「うん、このまま続けてもきっとお兄ちゃんは倒れないからね。先に負けるのは力の足りないあたしの方。引き際は弁えないと」


 そこで小羽は足をふらつかせながら剣を拾って立ち上がった。


「でも、次は勝つから。またレベルを上げて来るからその時に戦おう」


 そして、小羽は踵を返して去っていった。俺はただ立っているのがやっとだった。

 だが、倒れるわけにはいかない。ここには俺を慕ってくれる仲間達がいるのだから、魔王の俺は無様は見せられないのだ。

 



 駆け寄ってくるヒナミ達に笑顔を返す俺。

 破壊を宣言した勇者の手から学校は守られた。

 フィリスや校長も喜んでくれた。

 委員長は今までの態度を謝罪し、俺と友達になってくれた。

 そして、続くように他の生徒達も友達になってくれた。

 俺は追放を免れてこの学校にいられるようになり、ここに新魔王軍の拠点は完成したのだった。




 その模様を小羽は遠くの離れた山の上から見ていた。


「友達が出来て良かったね、お兄ちゃん。あの魔王はますます手強くなるよ。さて、あたしは久しぶりに王様に挨拶してこようっと」


 この世界から帰るのにヒナミ達の召喚術は必要無い。その事は魔王も知っている。

 彼女の行き先にはこの世界の王都があった。

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異世界に召喚された俺が魔王だと言われましたが何か? けろよん @keroyon

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