賭け
「暑すぎる…」
買ってきたばかりの缶ジュースで少しでも火照った体を冷やそうと頰にくっつける。
「うちの教室だけクーラー故障とかほんとありえないよなー。こんな暑さで授業とか拷問だわ」
首にかけたタオルで、滝のように止まることを知らない汗を拭き続ける友人の葵が不満をこぼした。
朝、始業のチャイムと同時に入った教室が異常に暑いことに違和感を覚えながらも席に着いたら、予想は的中。
あとから来た担任がこの教室だけクーラーが故障していると自身も止まらない汗を拭いながら生徒に知らせた。
とりあえず今日はすべての窓を開け、教室の四隅に付いている扇風機で過ごすわけだが、入ってくる風は湯気のようで、熱風を回しているだけだ。
それに僕と葵の席はちょうど窓際の真ん中あたりでもちろん扇風機の風なんて当たらず、さっきから生ゆるい風に吹かれている。
「そういや聞いた?」
「何を?」
「今日転校生が来るって話!」
葵は目を輝かせ、口の両端が耳に届きそうなほど満面な笑みで体を乗り出した。鼻がくっつきそうな程近いものだから、ひっぺがしてやろうかと思ったが、暑さのせいでそんな気力もない。
少しうっとおしく思いながらも葵の話に耳を傾ける。
「俺は女の子に1票!そんでもって美少女だなきっと。」
「根拠はあるの?」
「俺が言った時点で充分根拠あるだろ。」
認めたくはないが、彼がこれほど自分の発言に対して自信を持っているときは大抵当たっている。
…認めたくはないが。
「じゃあ、僕も美少女に1票。」
「えー、なんだよ涼。お前いつもは俺と反対の答え言ってたろ。今日もアイスは俺のものと思ってたのに。」
「残念ながら、僕も少しは学習したからね。」
毎回突然始まる賭けに僕はいつも負けている。変な意地のせいで、葵が勝つだろうと分かっていても逆の方に賭ける。そして負けるたびにアイスを奢っていたわけだが、もうそんな過ちは繰り返さないぞ。
口を尖らせながら正面を向く葵の背中を見て、心の中でガッツポーズをした。
夏の箱庭 星山セイ @sakurabi328
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