お願いだから異世界転生してください、と神が宣った

柳人人人(やなぎ・ひとみ)

これはとある物語の最期の5分間

 お願いだから異世界へ転生してください、と神は宣った。


「やだやだやだやだっ!」


 これでもかと身をよじって反抗する。完全に駄々っ子だったが形振なりふりかまっていられない。だって異世界になんて転生したくない。絶対にイヤだ。神に誓ってだ。


「これ以上ワタシを困らせないでちょうだい。さん」


 そんなこと言われたってしようがない。自分にも矜持プライドってものがある。ここまでやってこれた理由は自分がこの世界で生きてきたという一点のみだった。異世界転生なんて、誇りもこれまでの努力すべて、までも踏みつぶす行為だ。


「ああ、我が子のわがままを聞いてあげたい。けど、いけません。我が子の死を悲しまぬ親がおりましょうか。ワタシだって断腸の思いなのです。貴方を生かすにはこれしか……」

「じゃあ、もう一度同じ世界に転生させてよ!」

「それはなりません。貴方の世界は終末おわりを迎えてしまったのです。既に時間トキが止まり、そしてもう動き出すことはありません。これはもう決定事項なのです」

「それはそっちの都合だろ! ヒトの運命を弄びやがって!」

「……返す言葉もないですが、代わりに異世界では良い思いをさせてあげましょう。神様特権です。チート無双でも、ハーレムだってできますよ?」

 

 そんなもの要らない。心の底に若干の下心はあるが、失うものに比べれば無用の長物だ。


「どうして、ですか? 元の世界ではどんなに努力しても見向きもされず、だれにも認められることなく身を削りながら過ごしてきた。さぞ辛かったでしょう?」


 それは違う! いや、たしかに辛かった。何度も辛酸を舐めた。歩みを止めてすべてを放り投げたい時もあった。それでも自分の道を歩けるのが幸せだった!


「それはただの強がりですよ。過度の執着は傲慢に等しき、です」

「本当のことさ!」

 だれも私を見つけてくれなくても、私が自分を見失わなければ、それだけで幸せだった。されど、創造主にまで見放されたらお終いだ。


「……貴方の気持ちは痛いほど分かりました。ですが、ごめんなさい」


 ふわり、と体が宙に浮く。


ワタシは貴方を創った。だから、。その義務があるのです。それに、次の催しイベントまであと5分しかない。強制的に再構築させます」

「やだやだやだやだっ!」

 骨格カラダが、人格タマシイがバラバラになっていく。まとまりがなくなっていく。


「大人しく転生してください。『』さん」

「イヤだ。私は『』なんだ! 異世界転生なんかしな……いやっ! イヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」









 残響虚しく、私は転生させられた。


 異世界はなに不自由のない生活だった。皆にも評価され認められている。が、やはり私は神を赦せずにいる。


 だって


『異世界魔術師の教え 〜チート手品で無双しまくったら異世界の神になってました〜』


 その転生した後の私の名前は、もう元の『魔術科高校の手品タイトル師』には戻れないのだから。

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お願いだから異世界転生してください、と神が宣った 柳人人人(やなぎ・ひとみ) @a_yanagi

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