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この本は ソメイヨシノの集大成
変えられないものを 『宿命』と呼ぶ
変えられること 運命と呼ぶ
どの人生世界でも 私は きみに 巡り会う
どの人生世界でも きみは 私に 惹かれない
どの人生世界でも きみは 彼女をつくらない
きみに 好きな人が いれば 諦めるのに
それなら もう リンネには 会わないのに
進む時空を 繰り返して
ありがとう世界
そして
いつも私につっかかってくる落葉樹のきみへ
ゲームオーバーしない人生世界に いつか 辿りつけますように
*
昨日のことは、あまり覚えていない。
僕の記憶は正常におかしくて、嫌だと思ったことはすぐに忘れる。
昨日のことも、寝て起きたらちっとも覚えていなかった。
別に、それでいいだろう。自分が無事なら、それでいい。
ずっとそう思っていた、でも、
でも、今回は違う。
僕は初めて他人に興味を持って、初めて他人に暴言を吐いた。
人を、深く深く、傷つけた。ようだ。
忘れたくないことは、ノートにメモをしておく。
勉強みたいに。先生の話をメモする、そんな風に。
忘れないうちに、僕は日記を綴る。
昨日のことも今朝、予習のような復習のような感覚で、うけとめきれない昨日の僕を読んだ。
「……芳野咲良さん」
なにがあった。僕は、どうしてあんなことを口走った?
分からなかった。理由なんてもちろん。
でも、僕は僕だ。
忘れていようが、彼女を傷つけたのは僕であって、彼女が傷ついたことは変えようもないこと。
苛立ちは、人を傷つけていい理由にはならない。
「あの、」
隣の席の彼女は、ひっそりと目を赤くはらしていた。
桃井さんはそばにいない。彼女は1人だ。
1人で、窓際の、彼女の席へ座っていた。
優しい彼女には、優しい友達ができる。
異変を察して、そっとしているのだろう。
僕は、独りだ。
「昨日は、ごめん」
「……アタシこそ、意味不明なこと言ってごめんね。忘れて」
彼女の望み通り、僕は忘れた。
彼女の発言についても日記に書いてあったけれど、昨日の僕も分かっていなかったらしい。
今日の僕も分からなかった。
だから忘れた。
「あの、さ」
きっと、悔しかったんだ。すぐそばの人に、負けたくなくて。
それが
だからお互いに忘れて、リセットしよう。
もういちど、
「僕は芳野さんに、勝つから、ぜったい。」
もういちど、きみに宣戦布告しようと思う。
「勝ちたいなら、譲るけど」
「そうじゃない。対等にいこう」
僕は変わっていく。
僕にとっての勉強は、将来の貯金だったはずだ。
「僕は全力で盗りに行くから、芳野さんは全力で守っていて」
今の僕にとっては、どうだ?
「僕のわがままと自己満足に、つきあって」
「無理だよ」
「は?」
「無理。きみに打倒サクラはできっこない」
いつもより巻きの少ない髪をなびかせて、くるっと僕へ背いて立ち上がった。
何処かへ行くようなそぶりだけして、窓の外を眺めたふりをする。
「やってみないと分からないよ」
「やってみて分かってンだよこっちは」
「は——」
変化のない、殻の中の黒ずんだ緑木に、彼女の後姿は愚痴った。
「ナツメは何度だってそう言う。なんども聞いた」
「確かに負けてるけど、まだチャンスはある」
「なんで覚えてないの?」
「え、」
「なんで私だけ覚えてるの!」
震えた金切り声に、僕は初めて気づいた。
芳野咲良は、泣いている。
「何百回も、何千回も、何万回も戦ったよ。ナツメ、全敗だよ? まだ勝負するの? ナツメは、私のこと——」
風が吹き荒れた。
開いた窓から、暴風がぴーぴー入り込んでくる。
ばさばさっと、教室のプリントが無秩序に飛ぶ。
ここは、殻の中だ。
風なんて、ありえない。
黒いみどりも揺らぐ。僕も揺らぐ。
なんだろうこれ、覚えのある、ない、ない、ないだろう。ないのに、なんで、知ってる。
ありえないことが、有り得てしまうのは、そういう世界、
「この人生世界も、ゲームオーバーだね」
風に紛れて声が聞こえたその瞬間、
サクラは、
*
「お久しぶりです、サクラさん」
久しぶり リンネ
「いかがでしたか、n回目の人生世界は」
楽しかったよ
でも ナツメとは また
「そうですね」
仲良く なりたいのに
どういう 女の子に なったらいいの
「ぜんぶカード次第です」
どの私も 好みじゃないって
どうして 嗜好が すれ違うの
「いつか、いいカードがひけますよ」
そっか
そうだね
ナツメがここに来るまで、わたしは 寝てるね
もしナツメが ×××だったら 起こさなくていいから
「わかりました。いつもの通りですね」
うん
またね n回目のリンネ
「サクラさん。こちらの6.0*10^23枚のうち、1.0*10^n枚、選んでください」
またね、n回目のリンネ ぽんちゃ 🍟 @tomuraponkotsu
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