序章1

大海原に鉛色の雲が掛かる。

上空では無数の稲妻が音を立て走り、

横殴りの雨が散弾銃のように身体に当たる。


「なんでこんなことに?!」


大型貨物船セプテントリオンから荷物を受け取った俺たちは、吹き荒れる嵐の中で必死なって船を安定させようとしていた。

小型の漁船、乗船定員は五名。だが今は人間二人と受け取った荷物が陣取っている。

「南野(ナンノ)さん!このままじゃ転覆します。」

船体に当たる波しぶきと甲板に打ち付ける雨に音を遮られながらも、もう一人の乗組員である都(みやこ)ちゃんがそう言った。


現在地は港と貨物船の中間地点、いや、どちらかと言えばやや貨物船に近い位置にいる。

大型貨物船であるセプテントリオンに一時避難させてもらうのは有効ではあるが、俺は荷物を受け取った後に「天候の悪化を心配して早めに帰る。」と船員には伝えているし、貨物船の方も波の緩やかな沖合に避難すると言っていた。

一番最悪のシナリオを考えると、この波の状態で、港からも離れた位置でセプテントリオンに追いつけず、取り残されてしまった場合である。

港か、大型船か。


この選択が運命を左右した。

後から考えればそうだったのかもしれない。


「都ちゃん。港に戻るか、セプテントリオンに避難するか、どっちを選ぶ?」

「船です。この波じゃ、港まで帰る道中のほうが危険だと思います。」

地元である島生まれ、島育ち、島内の国立大学に通う生粋の地元住民の意見。

就職して配属一年目の俺なんかよりもずっと説得力がある。

「わかった。救難信号を出すから。都ちゃんは舵を頼む。」

「わかりました。」


「メーデー。メーデー。

こちら“理等島”所属の小型艇です。

セプテントリオン、聞こえますか?」

「ザザザーーー。」

無線を使うが、雷を孕んだ雲と激しい雨風が電波の送信を阻害する。

「クソッ。」

無線を諦め、一般的な通信手段を模索する。

「都ちゃん、電話で救援呼べないか?」

「さっきから試してみてるんですけど、ダメです。ここ、ギリギリ圏外みたいで。」

地上に建てられた電波塔を基地局としている携帯電話は、沖合の船をカバーしきれない。

電話会社の謳う広大な通話エリア、その外。繋がらない場所の残りのわずかな利用者はまさに今の俺たちなのだ。


無線がダメなら目視で確認してもらうしかない。

「おーい!!助けてくださーい!」

必死になって、ライトを点滅させて救難信号をアピールするのだが、俺たちはセプテントリオンの後方にいる。


そして・・・


ボォーーーーッ!!!

セプテントリオンから重低音がよく効いたホルンのような汽笛が聞こえる。


「やばい。」


無情にもセプテントリオンは速度を上げた。大型船の最大航行速度。こんな漁船では絶対に追いつけない。


「嘘だろ・・・。」

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十五商品漂流記 フクノトシユキと進学教室 @kinzoh-d

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