ねぇ、宇宙人っていると思う?

ひとり

斎藤の話

太陽と蝉がうざいくらい主張しあってる放課後の教室。

「ねぇ。野田はさ。宇宙人っていると思う?私はいると思う!」

部活の友達を教室で待ってたら、珍しく残っていた隣の席の斎藤が話しかけてきた。

「いないと思うけど。」

斎藤はクラス一、いや学年一の変人だ。掴み所がない奴。そんな斎藤が、僕は嫌いだった。

「そっか!野田って、自分で見たものしか信じないタイプ?」

「そういう訳じゃないけど。てか、何の用なの?」

別に、友達を待ってる間、何かしようと思ってた訳じゃなかった。ただ、斎藤の深く落ちていくような、しかし光が奥に見えるその瞳に、自分を覗かれてるようで気味が悪かった。

「強いて言うならね。野田って私のこときらい?」

どきりとした。あの斎藤の瞳が深く僕の心をえぐっていった。

「まさか!嫌いじゃないよ。」

僕は嘘をついた。斎藤に見透かされてるって分かってるのに、嘘をついて自分を守ろうとした。見え透いたウソなのに。

「ふーん。ねぇ、野田はさ。私が他人の心が読めるって言ったら信じる?」

頰に汗が落ちる。蝉と運動部の声がはるか遠くから聞こえる。

「し、しんじるよ。」

「へー。これは信じるんだ。なんで?」

なんで?いざ理由を聞かれるとわからない。ただ単純に、ウソをついたことに対する偽善からかも知れない。あの斎藤の瞳が嘘じゃないって物語ってるように感じるからかも知れない。

「んまぁ。それはいいや。ねぇ、野田。嘘ってついていいと思う?」

斎藤が話題を変えた。

どくどくと心臓が動いてるのを感じた。この話題の正解が僕には分からない。先程、斎藤にウソをついたばっかりの僕にとっては、余計に正解が分からない。

「私はね、嘘はついてもいいと思うの。人を不幸にする嘘はダメだと思うけど、人を幸せにする嘘はたくさん付くべきだと思うの。野田もそう思わない?」

僕は、

「逆に聞くけどさ。誰かが嫌いな場合、その人にきらいって言うべきなの?それとも、ウソをついて好きって言うべき?」

って聞いた。聞かずにいられたなかった。この問いに斎藤がどう答えるのか知りたかった。

「私はね、そのウソはつかない方がいいと思うの。そもそも、みんなありのままの性格で会話すればいいと思う。ありのままの自分を相手にぶつけないから、いじめとか、他人を不幸にする嘘をつくと思う。自分を偽らない方が素敵だよ。本音が大事。

あっそろそろ、野田の友達来るみたいだから、私は帰るね。話に付き合ってくれてありがとう。ばいばい。」

そう言うと慌てて、斎藤は教室を飛び出して言った。斎藤の瞳には光が満ち溢れた。眩しくて、窓を見た。風でカーテンが揺らめいて、太陽の光が入って来る。どこを見ても眩しかった。

蝉と運動部の声が今度は近くで聞こえた。

僕は、斎藤のことがますます分からなくなった。けど、斎藤のことは少し好きになれそうだ。

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