彼女持ちリア充の勇者を召喚する危険性について

海ノ10

王女の受難





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フウヤ・キリバシ

Lv1

 攻撃:405

 防御:39

 魔力:564

 速度:398

 知力:497

スキル

 空間操作(空間転移・空間断絶)

 感情倍率(強い感情を持つほどステータス上昇)


備考:召喚されし者

   稀代の勇者


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 眩い光が収まった後自分の視界に入ってきたその文字列に、少年は混乱させられる。

 それも仕方ない。今の今まで教室で幼馴染兼彼女の真菜まなとイチャイチャしながら話していたのだ。それなのに突如眩い光に包まれ、気が付けば目の前にはよくわからない文字列があり、自分のいる場所が教室から無機質な石でできた白い部屋に変わっていたのだから。


(え? ナニコレ?

 夢の中? ラノベ読みすぎてついに頭おかしくなった?

 というか、真菜はどこ?)


 疑問符ばかりが頭の中に浮かぶが、いくら混乱していても空気の読めない異世界の住人召喚した人は気にしない。


「初めまして、勇者様。私はこの国の王女です。急に呼び出してしまい、申し訳ございません。」

「……夢じゃない。」


 自分の頬をつねって夢かどうかを確かめた少年だったが、普通に痛かったので夢じゃないと判断した。だが、本当にこれが夢じゃなかったとすれば、自分の頭が心配になる。


「急なことで申し訳ありませんが、勇者様には悪の化身である魔王を倒していただきたいのです。」

(ま、まさかのテンプレ展開キター!?)


 想像以上のテンポの速さと驚くほどテンプレに忠実な展開に、少年は心の中で盛大にツッコミを入れる。だが、さすがはラノベを読み異世界に理解のある現代っ子、すぐに現状を理解すると一つの答を導き出す。


「報酬は――「嫌です。」――へ?」


 少年が情報を整理する間も与えないほど次から次へと話を進める(自称)王女の言葉を遮るように、少年は拒否する。王女はせっかくの美人が台無しだというほどポカーンと口を開ける。


「今、なんと?」

「だから、嫌です。魔王討伐なんかしたくないので元の場所に返してください。」

「何でですか! 魔王討伐に成功すれば、この国はあなたのものだし、私のような美女とあんなことやこんなことができるんですよ!?」

「そんなのどうでもいいので。」

「貴方、それでも男ですか! どうせ男なんて下半身で動く生き物なんだから、イエスと言っておけばいいんですよ!」

「酷い偏見と発言だね!?」


 一国の王女の発言とは思えぬそれに、少年は思わず大声でツッコミを入れてしまう。


「偏見じゃありません! 昔の勇者様の残した名言です!」

「迷う方の迷言だよそれ! それ言ったやつ連れてこい!」

「というか、貴方はそういうことに興味ないんですか!? ないんなら男として生まれなおして来てください!」

「なんで僕はそこまでボロクソ言われてるの!? お願いしてるのそっちだよね!?

 僕は、将来を誓った幼馴染がいるのでその人以外と結ばれるつもりはない!」

「はぁ!? 私よりその幼馴染とやらのほうがいいと!?」

「比べるのもおこがましい! 真菜のほうがいいに決まってる!」

「惚気ないでください! この下半身勇者!」

「意味わかんないんだけど!? なんで僕そんなこと言われてるの!?

 とにかく、僕は魔王なんて倒しません! 今すぐ帰ります!」


 帰してほしいと言う少年だったが、王女のほうからすれば大人しく帰すわけにはいかない。

 王女は良心が(ほーんの少し、雀の涙より少ないくらい)痛んだが、魔王を倒してもらうために嘘を吐いた。


「魔王を倒すまでは帰っていただくわけにはいきません!」

「なっ!?」


 その発言に、少年は大きなショックを受ける。そのショックの原因の大半が「魔王を倒すまで愛しい幼馴染と会えないなんて」というリア充爆発しろ的な理由だったのだが、少年がショックを受けたことには変わりない。

 目に見えて落ち込む少年に、王女が「魔王を倒せば、無事お帰りいただけますから」と言おうと口を開いた矢先、少年が目にもとまらぬ速さで動き王女の胸倉をつかんだ。その速度は、少年のスキル『感情倍率』のせいだったのだが、少年も王女も気が付かない。


「ひゃ!?」

「何処だ!? 魔王とやらは何処にいる!?

 今すぐぶち〇すから教えろ!」

「く、口調変わってます! それに、勇者がそんな汚い言葉遣いを――」

「いいから教えろ! 一刻も早く真菜に会いたいんだよ!」

「わ、わかりました教えますから離してくださいお願いします目がギラギラしてて本当に怖いです急に呼び出して本当にすいません謝るしちゃんと元の世界に帰すので許してください。」


 視線だけで人を殺せそうな少年にビビった王女は早口でそう言う。それを聞いた少年は王女を開放し、視線で「早くしろお前」と語る。


「に、西の大陸、魔王城の中に、魔王はいます……」


 それを聞いた少年はまだ使い方も知らないはずの空間転移を使い、その場から一瞬で消える。これは、怒りと言う強い感情のせいで大幅に強化されたステータスと勇者としての素質がなせる業なのだが、それを知るものはここにはいない。

 次の瞬間、少年はどうやったのかわからないが魔王の生首を持ったまま先程のスペースに転移してくる。思わず「ひぃ!」と悲鳴を上げる王女だが、少年は気にした様子もなくその生首をぽいっと投げ捨てた。


「魔王は倒した。早くしろ。」

「は、はいぃぃぃぃい!」


 少年の気迫に完全に押された王女は、本来なら一週間はかかる複雑な魔法陣をものの一分で完成させた。火事場の馬鹿力というやつだろう。少年の気迫は王女の生存本能がビビるほどのものだったようだ。

 光に包まれて少年が消えていった部屋に残されたのは、勇者の気迫に押されて何もできなかった護衛の騎士と肩で息をする王女、さらには無残にも一瞬で倒された魔王の生首だけだった。


「こ――」


王女はその場にぺたんと座り込みそう言葉を漏らすと、次の瞬間には騎士たちの目も気にせず号泣し始める。


「怖がったよーー!!

 えっぐ、し、死ぬがとおもっだ、こ、怖がった!

 もうヤダ! 召喚なんかじない!」


 ぐすぐすと子どものように泣きじゃくる王女だが、その気持ちを痛いほどわかる騎士たちは同情の目を向けていた。


 この日以来、この国で勇者召喚をするときは勇者だけでなくその周りの人も一緒に連れてくるようになったという。これが、俗に言うクラス転移の始まりである(真偽は定かではない)



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