魔王の最期

水乃流

魔王の最期

 長き戦いの果て、ついに勇者は魔王を追い詰める。魔王の間には間族たちの屍が積み重なり、魔力も体力も底を突いた魔王は、勇者が突き出す剣の前に膝を折った。

「これで最後だ……魔王よ、何か言い残すことはないか」

 魔王は、グッと歯を食いしばり言葉を絞り出す。


「見事だな! しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ」

「知っているさ! 仲間たちがいたからこそ、お前を討ち取れたんだ!」

「我が生涯に一片の悔いなし!!」

「そうか、ならばここで消え去るがいいっ!」

 勇者が振り上げた剣を振り下ろそうとした刹那、魔王が口を開く。

「僕は……嫌だ」

「今更命乞いか? 魔王ともあろう者が情けない。」


「わしを長飛丸と呼ぶんじゃねえ!」

「なに?」


「月光蝶である!」

「だから、何を言っている?!」


「その声……神勝平だな……我、敗れたり……神勝平……」

「誰だよ、神勝平って!」


「まだ僕には、帰れるところがあるんだ……こんなにうれしいことはない」

「ジョー、君はどこに落ちたい?」

「パトラッシュ、疲れただろう? ボクも疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ」


「あー! もー! うるさいっ! 滅びろっ!」

 勇者の振るう剣によって、魔王は消滅した。それを見ていた神官が一言、余計なことを言ってしまう。

「これが最後の一匹とは思えない……」

 大陸のどこか、地下の奥深くで闇が蠢いていた。

「魔王が死んだか……だが、奴は我らの中でも最弱……」

 やがて、第二第三のオタクな魔王が現れ、勇者たちを苦しめることになるのだが、それはまた別のお話である。

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