第2話・隣にはいつもその笑顔

 ましろ先輩に内緒のマフラー作りが進み、迎えた終業式当日。俺はちょっと気分がブルーだった。

 俺がブルーになっている理由はとても単純で、昨日出来上がったマフラーが少し失敗していたからだ。その失敗は編んでいる時は夢中でまったく気付かず、出来上がって全体像を見た時に初めて気付いた。

 だが失敗に気付いても今更やり直すには時間が無いから、俺は渋々そのマフラーを綺麗にたたみ、プレゼント用の綺麗な星の絵が描かれた包装紙に包んだ。

 こういうのは精一杯作ったっていう気持ちが大事だと思いたいけど、それは俺のていのいい思いで、本心は失敗を誤魔化したい気持ちがあるからに他ならない。こんな物をお世話になったお礼としてましろ先輩にプレゼントするのはどうかと思うけど、結果はどうあれ俺の編み物部としての集大成を見てもらいたい気持ちはあるし、ましろ先輩に手作りの品を渡す事でお礼の気持ちを示したいというのもある。

 そんな言い訳がましい事を考えつつ、俺はプレゼント用のマフラーが入った鞄を大事に持ちながら学校へと向かった。

 そして学校が始まり終業式を終え、二学期最後のホームルームを終えたお昼前。俺は最後になる編み物部の活動へと向かっていた。

 こうして部室に向かっていると、やはり寂しさが込み上げて来る。何にでも最後は訪れるものだけど、いざその時が来ると、これ程までに寂しくなるものだろうかと思ってしまう。

 部室に向かう時に見る外の風景も、今日だけは特別物悲しく見える。そんな意気消沈した気分で廊下を歩いて階段を上り、俺は編み物部の部室の扉を開いた。


「先輩、お疲れ様です」

「あっ、智也君。お疲れ様です」


 部室に入って挨拶を交わすと、ましろ先輩はいつもの様に席から立ち上がり、お茶を淹れる準備を始めた。この光景も今日で見納めだと思うと、本当に寂しくて仕方ない。

 俺はましろ先輩がお茶を淹れている姿を見ながらいつもの席に座り、鞄から今日の部室お別れパーティー用のお茶菓子などを取り出した。


「はい、どうぞ」

「いつもありがとうございます。先輩」

「どういたしまして」


 にっこりと微笑みながらそう言うと、ましろ先輩はいつもの様に俺の右隣へと座った。

 編み物を教えてもらい始めるまでは、長机を挟んだ向かい側がましろ先輩の座る定位置だったけど、今では俺の右隣がましろ先輩の座る定位置になっていた。

 最初こそ隣にましろ先輩が居る事に対して緊張しまくっていたけど、今では随分と慣れたもんだ。まあ、それでも緊張する事に変わりはないけど。


「何だかいつもとあまり代わり映えしないですね」

「そうですね……」


 せっかくの部室お別れパーティーだと言うのに、これではちょっと寂しい。どうせなら、いつまでも思い出に残る様なパーティーにしたい。


「そうだ先輩! これから一緒にパーティーグッズとか食べ物を買いに行きませんか? 近くにスーパーや雑貨店もありますし」

「いいですね! 早速行きましょう!」


 ましろ先輩は俺の提案に対してノリノリな様子を見せながら立ち上がると、急いで出かける準備を始めた。


「ほら、智也君! 早く行きましょう!」

「は、はいっ!」


 とても楽しそうにしながら準備を終えたましろ先輩は、うずうずとした様子で俺の準備を急かす。

 そんな様子を見せるましろ先輩はいつもの大人な雰囲気とは違って子供っぽく、それがまたとても可愛らしかった。そういうギャップのあるところが、ましろ先輩最大の魅力だと言っても過言ではない。

 俺はわくわくとした様子を見せるましろ先輩の為に急いで外行きの準備を済ませ、小躍こおどりする様に部室を出て行くましろ先輩の後に続いて部室の鍵を閉め、二人で買物へと向かった。


「智也君。最初はどちらから行きましょうか? スーパーがいいですか? 雑貨店がいいですか?」

「俺はどちらからでもいいですから、先輩が行きたい方に行って下さい」

「それじゃあ……まずは雑貨店でパーティーグッズを買いましょう!」

「了解です」


 これまで見た事が無いくらいにテンションの高いましろ先輩。

 今日を以って編み物部は廃部。あの部屋も編み物部のものではなくなるというのに、寂しくはないんだろうか。ましろ先輩が言っていた『大好きな場所』がなくなるというのに。

 どこまでも明るい様子を見せるましろ先輩の後に続いて雑貨店へと向かい、ちょっとしたパーティーグッズを買った後でスーパーで食料やお菓子を買い込んでから部室へと戻った。


「――これでどうですか? 先輩」

「ばっちりです!」


 八畳くらいの室内に買って来たパーティーグッズを使って二人で簡単に飾り付けをし、長机の上に所狭しとお菓子や惣菜品などを並べた俺達は、改めて部室お別れパーティーを始めた。


「今までお疲れ様」

「今までありがとうございます」


 部室への感謝を述べた後でクラッカーの短いパーンという音が不揃いに二つ鳴り、その中から放たれた小さな紙吹雪がひらひらと床に舞い落ちる。

 それを見て更にテンションが上がった様子のましろ先輩は、雑貨店でコソコソと買っていたパーティーグッズを袋から取り出し、それを俺に『付けてみて下さい』と言ってきた。


「どうですかね?」

「ふふっ、とっても似合ってますよ。智也君」


 ましろ先輩が俺に渡してきたのは、パーティーグッズでは定番のヒゲ眼鏡。黒縁の丸いフレームに、デカデカとかたどられた鼻の下から左右へと伸びるヒゲ。

 鏡が無いから自分がどんな風になっているのかは分からないけど、ましろ先輩がクスクスと笑っている様子を見ている限りでは、とんでもなく愉快な事になっているんだろう。笑われる事に抵抗は感じるけど、ましろ先輩が楽しそうだから全てを良しとしよう。

 こうして道化となった俺とましろ先輩の二人っきりのパーティーが始まり、今までの思い出なんかを話したりしながら部室お別れパーティーは進んだ。

 たった二人の編み物部だったけど、俺にとっては本当に良い思い出になった。でもそれは、ましろ先輩が居たからなのは間違い無い。

 そして思い出話にふけりながら二人でお菓子や料理に手を伸ばしていると、いつの間にか窓の外に見えていた太陽が沈み始めていた。


「あっ、もうこんな時間か。先輩、そろそろ片付けを始めないと」

「もうそんな時間なんですね……。よしっ、急いで片付けをしなきゃですね!」


 今までずっと明るい表情を見せていたましろ先輩が、この日初めて沈んだ表情を見せた。しかしその表情はほんの数秒で変わり、すぐに元の明るい表情へと戻った。

 そんなましろ先輩の見せた一瞬の表情が気にはなったけど、この部室を使える十七時までは残り一時間も無い。俺はとりあえずましろ先輩と一緒に部室内の後片付けをする事に専念した。

 できるだけ丁寧に室内の掃除をし、ゴミ袋にパーティーの残骸を入れてからましろ先輩と一緒にゴミ捨て場へと向かう。

 そしてゴミを片付け終えた後で部室へと戻った俺達は、帰宅の準備をしてから部室を出て最後になる部室の鍵閉めを行った。


「今まで本当にありがとう……」


 最後に部室の鍵を閉めたましろ先輩は、部室に向かって小さくそう呟いた。

 そして俺は扉の上に掲げられていた編み物部と書かれたプレートを外し、ましろ先輩と一緒に鍵とプレートを職員室に返しに向かった。

 今日が終業式という事で部活をやっているところは無く、校舎内はとても閑散としている。それがどこまでも物悲しさを増し、この現実を強く意識させる。

 部室内での軽快な会話のやり取りもどこ吹く風と言った感じで黙り込んだ俺達は、職員室に鍵とプレートを返してからいつもの帰路を歩き始めた。

 終わってしまったんだという実感が出てきていたせいか、俺もましろ先輩も取り留めの無い会話をしていた。そしてとうとう、いつものお別れポイントへと辿り着いてしまった。


 ――いけねっ! 先輩にプレゼントを渡すの忘れてた!


 このままではプレゼントを渡せずに終わると思った俺は、勇気を振り絞って言葉を出した。


「あ、あの――」「あのね――」


 俺が言葉を発したのとほぼ同じ瞬間、ましろ先輩も声を上げた。


「「あっ、お先にどうぞ」」


 今度は見事にましろ先輩と言葉が重なった。その事に思わず二人で笑い合う。


「先輩、これからちょっと時間はありますか?」

「大丈夫ですよ」

「それじゃあ、この近くにある公園に行ってもう少しお話をしませんか?」

「はい。いいですよ」

「はあっ……良かった。それじゃあ行きましょう!」


 俺はましろ先輩と一緒に近くにある小さな公園へと向かった。

 そして公園へと辿り着いた俺達は、公園の中にある小さなベンチへと腰を下ろした。


「ううっ……さすがに陽が落ち始めると寒さがヤバイですね」

「そうですね。それに今日は、雪が降るかもって天気予報で言ってましたから」


 吹いて来る強い風のせいか、体感温度は気温のそれよりも低く感じる。

 そんな中、俺はましろ先輩と並んで座って話を始めた。


「こんな寒い中すいません。話をするならもっと別の場所の方が良かったですよね?」

「ううん。そんな事は気にしなくていいですよ? 私も智也君ともう少しお話がしたかったですから」


 にこやかにそう言うましろ先輩を見ていると、冷たく感じていた身体が急に熱くなってくるのを感じた。このままではいつもの様にましろ先輩を見る事ができなくなる。

 そう思った俺は全神経を集中してそれに耐え、色々と思っていた事を話そうと思った。


「……あの、先輩。今まで色々とすみませんでした」

「えっ? 急にどうしたんですか?」

「だって俺、編み物部に入ってから長い間まともに編み物もしていませんでしたし、最終的には部員の勧誘もできずに廃部になったから……」

「そんな事を気にしてたんですか?」

「そんな事って……だってあそこは、先輩にとって『大好きな場所』だったんでしょ? それがなくなって寂しくないんですか?」

「もちろん廃部になった事も、部室がなくなった事も寂しいとは思いますけど、それは智也君のせいじゃありません。今は自分で編み物をする人は少なくなっているんですから、編み物部が廃部になるのは仕方のない事だったんですよ」

「でも……」

「それに、確かにあそこは私にとって大好きな場所でしたけど、今はもっと大好きな場所ができたんです。だから今の私には、それを失う方が怖いです……」

「もっと大好きな場所、ですか?」

「はい」


 俺の言葉に短く返答をすると、ましろ先輩は暗くなった空を見上げた。

 そんなましろ先輩につられる様に、俺も空を見上げる。

 すっかり暗くなった空には、光を遮る黒のカーテンに小さな穴を開けられたかの様にして無数の星が煌き始めていた。その星の輝きは冬の澄んだ空気のおかげか、やたらと綺麗に見える。

 そしてしばらくその星々を二人で眺めていると、スッと明るい尾を引きながら夜空を流れ落ちて行く星が見えた。


「あっ!」


 ましろ先輩は急に声を上げると、両手を握り合わせて何やら小さくブツブツと言い始めた。そんなましろ先輩の姿に呼応する様に、流れ落ちて行く星は数秒の間明るく輝いていた。


「何をお願いしたんですか?」

「ん? 秘密です」


 可愛らしい笑顔を浮かべてそう言うましろ先輩。そんな笑顔に俺の心は更に落ちてしまいそうになる。


「えーっ! 教えて下さいよ」

「ダメです。教えたらお願いが叶わなくなりますから。このお願いだけは、絶対に叶えてほしいですから……」


 それほどまでに言うましろ先輩のお願いが何なのかは気になるけど、これ以上聞くのはさすがにしつこいだろう。


「それは残念です……あっ、雪だ」

「やっぱり降ってきましたね」


 さっきまで星が瞬いていたと言うのに、今度はちらほらと見えていた雲から白の結晶が舞い落ちて来た。


「少し寒いですね……」


 ロマンチックな光景ではあるけど、肌に感じる寒さは強さを増してくる。そしてそんな寒さに反応するかの様に、ましろ先輩は身体を震わせ始めた。

 それを見た俺は今こそましろ先輩にマフラーを手渡すチャンスだと思い、急いで鞄の中にある包み紙を取り出した。


「あ、あの、先輩! これ、良かったら使って下さいっ!」

「えっ!?」


 俺がましろ先輩に向かって包み紙を差し出すと、ましろ先輩はとても驚いた表情を見せた。

 だけどましろ先輩はすぐにその表情を笑顔にし、『ありがとう』と言って包み紙を受け取ってくれた。


「開けてもいいですか?」

「もちろんです」

「――わあっ! これ、智也君が編んだんですか?」

「は、はい。先輩の為に自分なりに一生懸命作ったんですが、ちょっと失敗しちゃいました……」

「失敗? どこがですか?」

「それがその……かなり長くなっちゃったんです」

「あっ、本当ですね」


 ましろ先輩はたたまれたマフラーの両端を左右の手で持ち、その長さを確かめた。

 そんなマフラーを見ているましろ先輩の表情はやはり驚いていると言った感じで、俺はそんなマフラーを手渡した事を今更の様に後悔し始めていた。


「すみません……そんなに長かったら使い辛いですよね?」

「確かにちょっと長いですけど、最適な使い道はちゃんとありますよ?」

「えっ!? それってどんな?」

「それはですね……えいっ!」

「わわっ!?」


 ましろ先輩は少し恥ずかしげに微笑んでから立ち上がると、そのまま俺の前に立って自分の首にマフラーをかけ、余った方を俺の首へとかけてから隣に座り直し、最後はお互いを包む様に残りの部分を巻いた。


「え、えっとあの、これはいったい!?」

「こ、こうしたらお互いに暖かいでしょ?」

「そ、それはまあ、そうですけど……」


 突然の出来事に俺の身体は完全に硬直し、身動き一つ取れなくなっていた。ピタリとついたましろ先輩の身体からじんわりと心地良い体温が伝わり始め、同時に冬の澄んだ空気に乗ってフルーツ系の甘い香りが鼻腔へと入って来る。

 俺はこの状況に完全に身体を硬直させていた。片想いの相手にこんな事をされれば、恋心を抱く男子としては緊張で固まって当然だ。


「もう少ししたら、智也君ともお別れなんですよね……」


 しばらく緊張で固まっていると、ふと呟く様にましろ先輩がそんな事を言った。


「そうですね。先輩は来年卒業ですし……」

「うん……。でも私、廃部にはなっちゃいましたけど、編み物部を続けてて良かったと思います」

「俺も編み物部に入って良かったと思ってますよ」

「本当にそう思ってますか?」

「もちろんです! だって先輩が居たから、俺は毎日部活に来てたんですから!」

「えっ!? そ、そうなんですか?」

「あっ……は、はい……そうです……」


 突発的にとは言え本心を口にした事が恥ずかしくなり、俺は顔を俯かせた。


「……あの、智也君。智也君には大好きな場所ってありますか?」

「大好きな場所ですか? そうですね、ありますよ」

「それってどこですか?」

「そ、それは内緒です……」

「えーっ!? 教えて下さいよ」

「そんなの恥ずかしくて言えませんよ」

「うーん……それじゃあ、今の私が大好きな場所を言ったら教えてくれますか?」

「えっ!? うーん……まあ、それならいいですけど……」

「分かりました。それでは言いますね。ちゃんと聞いてて下さいよ?」


 ましろ先輩はそう言うと、静かに息を吸い込んでから俺の方を見た。


「私が大好きな場所は、智也君の隣です。智也君の隣が私の大好きな場所なんです」


 真剣な顔でそう言うましろ先輩の言葉を聞いた俺は、言葉の意味を理解しながらも混乱していた。


「ほ、ほらっ! 私がちゃんと言ったんですから、智也君もちゃんと教えて下さい! 大好きな場所を」

「は、はいっ! そうですよね。ちゃんと言います……」


 ましろ先輩の言葉は俺にとって驚きしかなかった。だって俺の想いはずっと一方通行で、決してましろ先輩に届くはずはないと思っていたんだから。

 だから俺は、今まで秘めていた想いの全てを口にする為にスッと空気を吸い込んだ。


「俺が大好きな場所は、ましろ先輩の隣です。編み物部がなくなっても、部室がなくなっても、ましろ先輩が卒業しても、俺は大好きなましろ先輩の隣に居たいです!」

「……本当にそう思ってくれてますか?」

「本当です!!」

「…………ありがとう、智也君……私、凄く嬉しいです……」


 いつも柔和な笑顔を浮かべていたましろ先輩の瞳から、スッと涙が零れ落ちる。


「だ、大丈夫ですか!?」

「う、うん。ごめんなさい。嬉しかったからつい……智也君は私に興味なんて無いと思ってましたから……」

「そんな事はありませんよ! 俺はずっとましろ先輩が好きだったんですからっ! あっ……」


 また勢いで本音を口にしてしまい、俺の心は一瞬で恥ずかしさに包まれた。


「ふふっ。私達、お互いに凄く遠回りをしてたんですね」

「ははっ。そうみたいですね」


 お互いの気持ちがはっきりとした途端、これまで悩んでいた事などが急に可笑しくなって思わず小さな笑いが漏れる。

 それは同じ様に小さな笑いを漏らしているましろ先輩も同じだったのかもしれない。


「あの、こんな俺ですけど、これからもよろしくお願いします。ましろ先輩」

「私こそ、よろしくお願いします。智也君」


 チラチラと白の結晶が舞い落ちる中、俺達はそう言って握手を交わした。握ったましろ先輩の手は冬の冷たい空気で冷やされていたけど、しばらくするとじんわりとした温かみを取り戻し始めた。

 そして握手を交わした後、その手が離れた瞬間にましろ先輩は空を見上げて口を開いた。


「それにしても、ちょっと驚いちゃいました」

「何がですか?」

「流れ星にしたお願いです。まさかこんなに早く叶うとは思っていませんでしたから」

「えっ? それじゃあ、先輩がしたお願いって……」

「はい。私のしたお願いは、『智也君の隣に居られますように』ってお願いだったんです」

「そうだったんですね」


 ましろ先輩が願った事を聞いた俺は、改めて身体が熱くなるのを感じていた。


「それじゃあ先輩。次に流れ星が来たとしたら、先輩は何を願いますか?」

「うーん……そうですね…………」


 俺の質問に対し、ましろ先輩は真剣な表情を浮かべて考え始めた。

 考えている時間はそんなに長くはなかったけど、ましろ先輩は真剣な表情からパッと笑顔になると、俺に巻いていた分のマフラーを取ってからそれを自分に巻き直し、スッと立ち上がって俺の正面に立った。


「何か思いつきましたか?」

「はい! でも教えません」

「えっ!? どうしてですか?」

「だって、お願い事は口にしたら叶わなくなりますから」

「そんなあ」

「だからもしお願い事をしたら、そのお願いが叶った時に教えてあげます。智也君だけに……さあ、帰りましょう!」


 ましろ先輩はそう言うと、公園の外に向かって小走りで駆けて行く。


「ちょ、ちょっと待って下さいよっ! 先輩!」

「ほーら、早く来て下さい! 智也君は私の隣に居てくれなきゃダメなんですからっ!」


 俺の大好きな柔和で可愛らしい笑顔を浮かべながらも、少し恥ずかしげに左手を俺の方へと差し出して待つましろ先輩。

 そんなましろ先輩の方へと向かって行った俺は、その差し出された左手へ向かって右手を伸ばした。

 そしてその柔らかく温かな左手を握った俺は凄まじい恥ずかしさを感じつつも、大好きなましろ先輩の隣にずっと居られる様にしたいと思いながら、満面の笑みを浮かべるましろ先輩と一緒に夜の公園を出て行った。



真っ白な想い~Fin~

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真っ白な想い 珍王まじろ @marumagiro

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