幼馴染と過ごす最後の五分間

ミリオン

幼馴染と過ごす最後の五分間

「何で、ここにいるの?」


 目の前の彼女は言う。


 彼女は所謂幼馴染と言え、物心つかないほど昔から一緒にいた。共に笑い、共に泣き、共に遊び、共に食事をし、共に眠る。両親曰く、まるで双子かとまで思うようにシンクロしていたそうだ。片方が笑顔を浮かべれば、もう片方もまた笑った。片方が泣いたならば、悲しみを共有するかのように泣いた。

 いつも変わらず。いつでも隣に。それが僕らの関係。それは共生で、それは共闘で、それは共演で、それは共依存で、さらには相思相愛と言える間柄だった。

 互いが互いになくてはならない存在。仮に一方が死ぬならば、躊躇わずに後を追うだろう。少なくとも、僕はそうする。

 彼女も恐らくそうだろう。を見れば、一目瞭然だ。


「安全な所に居てって言ったじゃん。せっかく、作ったのに」


 彼女は言葉を続ける。

 この場合は彼女sheの意味だが、事実僕にとっては彼女girlfriendだった。

 ああ、いや、そんな事はどうでもいい。重要なことと言えば僕らは相思相愛で共依存の関係にあったと言うことだけだ。

 僕らが感じる世界には二人の人間がいればよかった。それだけで満足だった。


「あとちょっとで終わるんだよ」


 彼女は僕を宥める。

 彼女はいい恋人だったと言える。僕を見て、理解して、肯定してくれる。僕の全てを受け入れてくれる。これがいい恋人でなければ何と言おう! 世の中の男女のような面食いだの、浮気だの、やれ運動ができるからとか頭がいいとか、そんなとは比べ物にならない。

 僕が僕であるだけで彼女は僕を愛してる。彼女が彼女であるだけで僕は彼女を愛する。

 だからだろう。だからになったのだ。


「こんな危険なとこじゃなくて私の作った地下に居てよ」


 彼女が僕に願う。

 ああそうだ。僕は彼女と共にいる事だけを望んだ。彼女と一緒にいればどこに居ても良かった。

 でも、彼女は僕のみが共にいる事を望んだ。雑音が入らず、群衆が映らず、真に二人っきりの世界を望んだ。

 だからだ。僕が――彼女が――今ここにいるのは。


「あと五分。この最後の五分間が過ぎれば、邪魔者は全部消えるから」


 だから彼女は世界を滅ぼした。

 ビルの天辺から見えるのは紅く美しい夕焼けと、赤く悍ましい街の景色。

 恐ろしい程のパニックにより、町中が燃える。悲鳴や暴走した機械の騒音、時折起こる爆発なども相俟って断末魔のようにも聞こえる。街の断末魔。いや世界中がこうなっているのだから、世界の断末魔。僕の幼馴染が起こした悪行こと



 彼女は、僕を肯定した。僕の全てを受け入れた。


 でも――


 世界が終わる最後の五分間。

 僕は彼女を否定しなければならない。

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