第31話 閑話①朝帰り

「和馬くんとデートをして……今帰宅とな? つむぎ姉」

「ひっ……!?」

 早朝、音を立てずに忍び足で帰宅した紬だったが……妹である舞には全ての行動を看破されていた。


「上手く行ったか心配だったけど、ちゃんと成功みたいで良かったよ。おめでとう、つむぎ姉」

「な、なんで上手く行ったなんて分かるの……?」

「分からないわけないじゃん。朝帰り、、、してるんだし」


「あ、朝帰りとか大声で言わないでっ! ……って、痛たたっ」

『朝帰り』のワードで一瞬にして頰に熱を溜め込む紬は、声を無意識に荒げて……これが身体に響く。


「……ど、どうしたの? お股なんか抑えて」

「お、お股じゃないっ! お、お腹が痛いだけっ! 腹痛なのっ!」

「そ、それにしては歩き方が変じゃない? お股を庇って歩いてるみたいな……」

「これがいつも通りっ!」


 この話題を追求されるわけにはいかない……。されるわけにはいかないのだ……。

 紬はこれ以上の違和感を生ませないようソファーまで移動し、腰を下ろす。

 これならば動かなくても違和感なく、股の痛みを軽減出来る。紬にとってナイスアイデアだった。


「とりあえず、冷たいお茶でも飲む? 喉乾いたでしょ?」

「気遣わせてごめんね、舞。ありがとう」

 舞の気遣いに甘える紬は、シーンとした空間を生ませない為に、とりあえずテレビを付ける。


「はい、どうぞ」

「うん、ありがとう」

 そして……コップに注がれたお茶を紬が飲んだ瞬間だった。


「和馬くんと、シた?」

「……っ!? こほっ、こほっ……! い、いきなり何を言ってるの!?」

 舞はタイミングを狙っていたかのような不意打ちを見せる。


「あ、話す順番間違えた……。つむぎ姉は和馬くんの彼女になったでしょ?」

「……なりました」

「和馬くんのお家に泊まったでしょ」

「そ、それは……、うん……」

「シた?」

 ーー突として来る『大人なコトをしたのか』との発言。


「だっ、だからなんでそうなるの!? そ、そんなの聞かないで……! って、あたたた……」

 大声を出せば、再び股に痛みが……。


「だって、つむぎ姉の恋をずっと応援して、時にはフォローをしたんだよ? 少しくらいは教えてくれても……ってなるよ」

「うぅ……。それはそうだけど、恥ずかしいんだもん……」

「ってことは……やっぱり、シたんだよね?」

「み、みんなに言わないなら教える……」


 舞がいなければ、和馬と結ばれる事はなかったかもしれない……。舞のフォローがなかったら『付き合うこと』は出来なかったかもしれない。

 紬は舞のフォローの有難さを身に染みて感じていた。その思いがある限り、二人の進展を報告するのは当たり前に近いことでもあった。


「言わないから、教えてほしい」

「それじゃあ、舞にだけ言うけど…………シました」

 恥ずかしさをどうにか堪え、小声で伝える紬。


「ど、どんな感じだったの……?」

「どんな感じっ!?」

 行為中のことを聞いてくるとは想像もしていなかった紬は、質問のままにあの日のことを思い出してしまう。あの時の光景を鮮明に浮かび出してしまう……。


 それだけで顔から火が出るほどの羞恥が蝕んでいく。


「ほ、ほら……うちも女性なわけだし、ゆくゆくはそんな行為もするわけだから、少しでも聞いておきたくて……」

 舞だって年頃の女の子なのだ。その行為に興味がないわけではない。少しでも体験した相手から聞いておきたかったのだ。


「やっぱり最初は痛いの……?」

「そ、それは痛いけど……。と、とっても気持ちよくなるから……痛みを忘れるっていうか……」


「そ、そんなに気持ちいいの……? せ、せせせせ性行為って」

「う、うん……。言葉に出来ないくらい気持ちよかった……」

「そ、そうなんだ……」


 無意識のままに顔を蕩けさせる紬を見て、舞は生唾を飲み込む。

 ……どれほど気持ちよかったのか。

 今の紬の表情を見れば、なんとなく分かるものがあったのだ。


「で、でもね、相手さんが優しくしてくれないと、耐えられないくらい痛いと思う……。カズマが優しくしてあの痛さだったもん……」

「そう、なんだ……」

「こ、声なんだけど……ほ、ほんとに抑えられないから……」

「あれって演技とかじゃないの!?」


 この手の話題になれば、話せば話すだけ気が昂まってくるもの。

 この発言が『大人の動画』を見ていることを指すだなんてことを、今は考えられるはずもない。


「ほんと気持ち良くて息を忘れるくらいあるから、家族が居るところでしたら絶対にバレるからね……」

「そ、そんなに凄いんだ……」

「う、うん……。こ、これだけは好きな人としないと、本当にもったいないと思う……」


 そうして……暫くそんな会話に花を咲かせる二人。


 話も終盤に近付いた頃……紬のスマホに一件のメールが飛ぶ。

 液晶に映されるその名前は『和馬』

 そして、こんな文章が届いていた。


『身体、大丈夫か? あんなに激しくしたから心配で……。もし何かあったら、遠慮せずに言ってくれよ』


 その通知メールを視界に入れた舞は、ふっと微笑みながら紬に伝える。


「……いい彼氏さんを持ったね、つむぎ姉」

「えへへ、うんっ!」


 紬はそのメールに既読を付け……即返信した。

『痛いけど、幸せだよ……っ』そんな想い溢れた文字を。

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ずっとずっと追いかけてきた男の子の幼馴染〜その彼と両片思いだった!?〜 夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん @Budoutyann

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