泡沫病

@HakutouCyder

第1話 7月14日

 うだるような暑さの中、やかましい蝉の声で目を覚ます。

ベッドから起き上がると体が寝汗でべたついていることに気づく。

夜は暑さで寝苦しかったことを思い出し、夏という季節が本当に嫌だということを再認識しながら覚醒していない頭で寝室を後にする。

誰も居ないリビングに入ってテレビを付ける。

---あぁ、またこの話か

 偉そうな司会とどっかの先生が熱心に話をしている。

「ですからこの病は未だにーーー」「いやそれだと説明がーーー」議論は今日も平行線のままのようだ。毎日同じ話題でよく飽きないなと思いつつ着替えを持って浴室に向かって歩く。

寝汗で湿った衣類と下着を脱いで温いシャワーを浴びながら思い出す。


 その病は突然現れた。…一年ほど前のことだ

喫茶店で恋人の男性と一緒に食事をしている女性が突然泡になって消えてしまった。男性曰く「会話の途中で何の前触れも無く、いきなり泡になって消えてしまったんだ。いくつかのシャボン玉になって、空中ではじけて消えてしまった。」

実際に現場に居た他の客、従業員もその現象を見ている。

泡になって消えた後に残っていたものは身に付けていたものと鞄のみ。

テレビはそんな特ダネを逃すはずも無くその恋人の男性、従業員、客にしつこく取材。連日報道し続けた。


 結果。恋人の男性もーーー同じく泡になって消えてしまった。

男性が仕事に行く途中、取材しようと報道陣が声を掛けた瞬間だった。同じく目の前でシャボン玉のようになり空中ではじけて消えてしまった。


 その映像が全国ネットに出てしまうと、そこからは早いものだった。

同じ現象で消える人たちが続々と出てきたのだ。老若男女問わず、社会人、子供、はては余命わずかの老人まで泡になって消えてしまった。

国はこれを新種の病と認定。名をーーー泡沫病(うたかたびょう)と名づけた。

 潜伏期間があるのかも不明、発症原因も不明。

人々はいつ自分が泡になって消えるか日々不安になり、怯えて暮らす人もいれば「苦しまずに安らかに死ねる」と自分から泡になりたいと望む人も出ている始末だ。


友人も何人かは泡になりたいと言っていた。その時に「あなたはどっちが良いの?」と聞かれたが、いまいちはっきりとした答えは出せなかったことを覚えている。 


ーーー私は、どちらでも良かった。

苦しんで死のうが、泡になって消えようが。

どうせ、この世界から‘‘消える‘‘という事には変わりが無いのだから。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泡沫病 @HakutouCyder

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る