時間がないわたしと時間がないのにあると思っている人たちとどっちが世間を知ってるのかって話
naka-motoo
時間がないわたしと時間がないのにあると思っている人たちとどっちが世間を知ってるのかって話
「時間がないんだよ、わたしには!」
「ど、どうしたんだよ、急に」
「今日、17歳になっちゃった」
「今日? 17歳? ミスミん、お前・・・」
半泣きで迫真の演技をするミスミんに俺は大笑いで宣言した。
「だーれがんなもん引っ掛かるかよ! 今日は4月1日だぞ!」
「そーだよ」
「今時エイプリルフールなんて流行らんぞ。大体どうして高3なのに17歳なんだよ、嘘つきめー!」
「やっぱりなんにも知らないんだね、タナベって」
「世の常識を知り尽くしとるわ、俺はよ!」
「はー。せっかく真面目な話しようと思ってたのに・・・もういーよ。じゃ」
ミスミんが席を立とうとしたのでちょっとだけ慌てた。
「待て待て。俺だってエイプリルフールで盛り上がりたいお前の気持ちはまあ分かる。失敗でお前の負け、ってことでいーじゃないか」
「はー。4月1日生まれの学年の決め方、ほんとに知らないんだ。ていうか、入学式の時に気づいといてよね」
「ん?」
彼女から詳細な説明があった。4月1日生まれは早生まれと同じ扱いで、3月31日生まれと同じ学年に編成されることを。だからミスミんは高校生の間は永遠の17歳なのだと。
「ごめん。知らんかった」
「まったく世間知らずにもほどがあるよ。こんなんでよく後期の生徒会長が勤まったもんだね」
「3年前期も出るぞ!」
「別に止めないよ。どうせわたしをまた副会長にするつもりでしょ」
「それだけミスミんを信頼してるんだ。ところでさっき時間がないとか言ってたな」
「あーもう。5秒で済む話に5分もかかっちゃったよ。そう。もうわたし17歳だよ」
「自慢か。18歳への挑戦か」
「何14歳の挑戦みたいな造語作ってんのよ。そうじゃなくって、いろんなことがもう遅きに失しそうだ、って話よ」
「バカな。十分若いだろう」
「ううん。例えばスポーツの最年少記録ってどんどん出てるでしょ」
「ああ。確かに」
「16歳、っていう年齢がやたら多いんだよ。もう、終わってるでしょ」
「いやな言い方するなよ。お前より年上のおばさんたちが聞いたら気分を害するぞ」
「あ、おばさんなんて言った。知らないよー」
「ミスミんが同学年の女子の誰よりも年下なのは事実だろう」
「そのわたしにして焦るんだよ、やっぱり。ああ、もうわたしは最年少記録を更新するコースから外れてしまった」
「別に一生関わる可能性のないスポーツの最年少記録なんてどうでもよかろう」
「いやでもさ、実はわたしにフィギュアスケートの才能があったらどうする?」
「どうもしないよ。スケートの好きな人同士で才能発掘し合ってりゃいいじゃないか」
「でももしかしたらわたしが氷上を華麗に回る姿をタナベは生涯見逃すことになるかもしれないんだよ」
「ん・・・」
「どう?」
「・・・確かにちょっと惜しいな」
「でしょう?」
「なら競技関係なく趣味でくるくる回ってくれ」
「やだよ。あんなの競技だから真面目に見えるんで、意味なくくるくる回っててもかっこよくないよ」
「発言に気をつけろ。スケート批判ととられかねんぞ」
「別にわたしスケートに興味なんかないもん」
「・・・じゃあ、どうでもいいじゃないか」
「どうでもよくないことだってあるでしょ、スケート以外で」
「何をそんなに焦るんだ。もしかして不治の病なのか」
「ちがうよ。あ、でも寿命があるってことは必ず死ぬ病気とも言えるか」
「急激に深い話に持ち込むなよ。何だ。一つ歳を取っただけで諸行無常してるのか」
「動詞にするな。なんかさ、この高校生活ももう残り1年を切ったと思うとやっぱり切ないんだよね」
「深いのか浅いのか、熟年恋愛なのかラブコメなのかどっちなんだ」
「タナベも相変わらず不可思議な感性だねえ。まあ、タナベやら生徒会のみんなとわいわいやってるこの毎日がちょっと愛おしくなってきてる、ってことなんだよね」
「単なる感傷か」
「そういうのって案外大事なんだよ」
「うーん。まあ、わからんでもないな。よし!」
「な、なに?」
「ミスミんの誕生会を開いてやろう。生徒会全員強制参加で」
「やだよ」
「なぜ」
「生徒会で他に4月生まれが何人いるか知ってる?」
「知らん」
「5人だよ。しかもわたし以外全員男子」
「そうなのか」
「きっとプレゼント交換したら無価値のフィギュアとか手垢にまみれた文庫本とか異次元の物品がわたしの所に回ってくるのよ」
「お前、あいつらを何だと思ってるんだ。仮にも生徒会執行部員だぞ。人格をリスペクトしてやれ」
「学内一蔑まれる属性だよ、執行部員って」
「・・・・」
「あーあ。タナベとの無駄話で貴重な17歳の15分を使ってしまった」
「俺だって17歳の時間を使ったぞ」
「タナベって4月2日生まれだよね」
「よく覚えてたな」
「あと一日違いで永遠に会わなくても済んでたかもしれないのに」
「縁、だよ」
「大体タナベは明日でもう18じゃない」
「そうだな。年長者を敬えよ」
「ディスられるような所業しかしてないくせに」
「お釈迦様も長幼の序を説いてるぞ」
「あほ」
おしまい
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