第3話 悪の秘密結社の実態
とある週末の昼下がり。エイコは駅前の広場にあるベンチに座っていた。
「すまない、待たせたな。」
遠くの方から怪人が申し訳なさそうにこちらへ駆け寄ってきた。
「よし、行きますか!」
エイコはぺちんと自分の太ももを叩いてベンチから立ち上がった。
エイコはこれから戦場へ向かう。
もしかしたら死んでしまうかもしれない。でも不思議と死への恐れはなかった。
それよりも悪を退治することへの使命感に打ち震えていた。
今までなんの色も持たなかった自分の人生が、悪から世界を救うという大きな目的によって輝き出したからかもしれない。
とかなんとか、エイコの心の声がそれらしくナレーションしているうちに、目的地へ到着した。
『世界征服を企む悪の秘密結社(2F)』
でかでかと恥ずかしげもなくそう書かれている看板のついたビルに。
「…なんなの、これ。」
「見てのとおり我ら秘密結社の本部だ。」
「秘密結社なんだからここが悪の秘密結社であることを隠すべきでしょ。なんで堂々と看板掲げちゃってるのよ。しかも2階にあるなんてご丁寧にカッコ書きまでつけて。」
「うむ、言われてみればその通りだ。今まで全く気づかなかった。」
エイコは呆れてものも言えなかった。
くらくらする頭を抱えながらそのビルに入ると、中は暗くほこりっぽい空気が立ち込めていて、外観よりもっと古びた印象を受けた。きちんと掃除をすればもう少しそれなりに見えるかもしれないのに、とビルの管理人にも文句を言いたくなってきた。
エレベーターで2階まで上がり、チンと安っぽい鐘の音が、まるで戦闘開始の合図のようだった。
エレベーターが開くと黒いドアが目の前にあった。
「本当にいいのか?まだ今なら引き返せるぞ。」
怪人はドアの前に立ってそう尋ねてきた。
「ここまで来たもの。今さら逃げ出すわけにはいかないわ。わたしはどうしてもあんたの上司に会っていろいろと言ってやりたいのよ。」
エイコはドアノブに手をかけて、勢いよくドアを開いた。
目の前に広がる光景は、祭壇の前に佇む黒いマントを着た男でもなく、ムキムキに鍛え上げられた怪人の大軍隊でもない。
狭いオフィスにデスクが6つ。デスクにはそれぞれ電話とパソコンが置かれ、両脇に書類が山積みになっていた。
「ここが悪の秘密結社?」
エイコは呆気にとられていた。
カタカタとせわしなくキーボードを打つ音、受話器を片手に見えない相手に必死に謝る声。目の前の仕事に手一杯で、誰もエイコの存在には気づいていない。
見た目は確かに怪人だが、皆すっかりやつれていて疲労困ぱいであるのは明らかだった。
「こんなの典型的なブラック企業じゃない。上司はどの席に座っているやつなの?」
「我らのボスはここにはいない。別の部屋にいるのだ。」
オフィスの奥にはドアがあり、そこへ案内された。
ついにラスボス対決。
このドアの向こうにどんな光景が待ちわびているのか、エイコは知る由もなかった。
世界征服専門コンサルタント・エイコ ころもり @coromori
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