夏ノ在リカ

白Ⅱ

第1話

 「蝉が死んでたよ」

 「そう」と言う君が生返事なのはわかってる。だってヘッドホンしてるし。

 外では蝉が少し鳴いている。

 そんな音も君には聞こえてないだろう。

 「蝉ってもっと八月の終わりとかに死んでるもんだと思ってたけど、今年は変だな」誰に聞かせるわけでもない。ただ、一人呟くように言う。

 「    」君はもう返事もしない。文化祭に出す本のアイディア出しに集中している。

 僕も、夏休みの宿題に集中しよう。といっても本を読むだけだが。

 蝉が死んでた。

 ひっくり返っていた。

 実は死んでないのかもしれない。

 だからどうしたという話だ。

 いや、そういうことを言いたいんじゃない。

 僕は。

 蝉がうるさいほど鳴いている夏を夢想する。

 それが早くも死んでひっくり返っていたとすると。

 この夏は始まる前にもう終わってしまったかのような気がしたのだ。

 だから、君に聞いてみたのだ。

 君は。

 「●●●●●●」この夏の始まりがどこにあるか知ってるか?

 君はペンをスースーと軽やかに滑らせる。

 そんな横顔がどこか涼しげで、それがなぜか夏を感じさせた。

 「なあ」と僕は少し大きな声で、君の耳に聞えるように言った。

 「ん?」と君は僕に顔を向ける。

 僕は自分の耳を指さしジェスチャー。

 「ああ」と君はヘッドホンをはずす。

 それを待って僕は言った。

 「外に行かないか?」

 「なんで?」と君は言う。それはそうか、わざわざ暑い外にでる理由はない。しかし僕にはある。理由が。だから言った。

 「夏を探しにさ」蝉の声が少し大きくなった気がした。

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夏ノ在リカ 白Ⅱ @shironi

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