青春スプラッシュ

負け犬アベンジャー

夏の日のBGM

 初恋だった。


 相手は部活の先輩だった。


 決して目立つような人じゃないけれど、だけど時折見せる笑顔が素敵で、いつの間にかそれを見かけるだけで胸が高鳴るようになっていた。


 だからあの日、一緒に帰れるチャンスを運命だと思った。


 切れる息、高鳴る胸、全力で走って追いついた。


 ……だけど、先輩の隣には知らない人が立っていた。


 初めて見せる人、初めて見せる笑顔、そして初めて手をつなぐ姿を見て、見せられて、見てしまって、逃げ出すしかなかった。


 片思いだった。


 失恋になった。


 付き合ったこともない。好きだという暇もなかった。


 ただ一方通行のこの思い。悪いのは、きっとこっちだろう。


 溢れる感情、苦い思い。


 吐き出したくて泣き出したくて、なのに暑い日差しが、涙さえも乾かしてゆく。


 そんな涙を潤してくれたのは、キリンレモンだった。




 キリンレモンは今年で九十周年、長い間多くの方に愛されてきました。


 香るレモンは瀬戸内レモンピールエキス使用。


 透き通る色は着色料不使用、天然水の透明感。


 甘酸っぱい味は人工甘味料を使ってない自然な味わい。


 夏の暑さに、流れた涙に、レモン香る炭酸が潤してゆく。


 恋をした人に、恋をしている人に、これから恋をする人に、いつもいつでもキリンレモンは寄り添っています。


 全ての恋へ、甘酸っぱいエールを、この歌声に乗せて。


 レモンレモンきっりーん


 新たな装いニューボトル


 レモンレモンきっりーん


 時代を先取り無色透明


 レモンレモンきっりーん


 さぁみなさまハンカチの儀用意を。


 レモンで横にぃ、回して、きりんで縦に、さんっハイ!


 レモンレモンきっりーん


 みなさぁん、ご一緒に


 レモンレモンきっりーん


 恥ずかしがらずに


 レモンレモンきっりーん


 声をぉ出して


 レモンレモンきっりーん




「あのさぁ、これを送るの?」


「送ったの」


「ばっかじゃないの? 大体何できりんの前にレモン来てんのよ」


「そりゃお前、こー伸ばす感じってきりんの首じゃん」


「だからって商品名変えちゃまずいでしょ」


「何言ってんだよこれ絶対うけっから。テレビでコマーシャルバンバンだから」


「いや無理でしょ。そもそもここって、コマーシャルソングなら昔からあるでしょ?」


「俺は過去にこだわらないんんだよ」


「過去にこだわらないやつが九十周年とか歌うわけ?」


「いーんだよロックはフィーリングなんだ。心で感じて、魂で叫ぶんだ」


「はーーん」


「いーから最後まで聞けって。最後んとこはお前でも絶対痺れっから」


「あ」


「な?」


「じゃなくて……そっちが、私の」


「あ…………ごめん」


「…………うん」

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