1-28 魔導鍛冶にて
話しているうちに鍛冶工房に到着していた。派手な煙突も無ければ金属を叩く槌の音も無い。外見的にはただの武器屋にみえる。
それはこの工房が日用品をつくる鍛冶ではなく、魔導鍛冶の工房だからだ。
魔導鍛冶は鍛冶師ではなく錬金術師の系統に属するから、クレイ系の土魔法で火床も金床も使わずに原料の金属から刀剣、甲冑を作り上げる。
なので、いかにも親方と呼ばれそうなドワーフは魔導鍛冶では少数派だ。どちらかと言えば頭脳労働をしそうな鍛冶師が多い。
「いらっしゃい。何か捜し物かの?」
赤髪を短髪にした少年と茶髪の少女が、商品の陳列をやめてこちらに歩いてくる。その物腰はとても少年のものとは思えない老成されたものだ。
「ズークおじいちゃん、この女の子用に魔導甲冑つくって?」
「相変わらずアホじゃなマリーは」
ドワーフのズークさんがマリーのオーダーに呆れた顔で答える。マリーまだ諦めていないのか。
「魔導甲冑がいるのはむしろこっちの男じゃろが」
ん? なんで俺?
「ユーリは土魔法使いだから防御なら心配要らないと思うんだけど」
マリーもなんで? という顔をしてズークさんに聞き返す。
「この男の身体はバランスが悪いんじゃ。魔導甲冑かはしらんが、何らかの魔導具に頼っていたはずじゃ」
伝説の針灸師かよこのじいさん。
とはいえ、確かに今の俺は武器よりもSPが上がる装備ならなんでも欲しい。マイナスLPのせいで防御に不安がありすぎる……財布と相談だけど。
「既製品で良いので俺が装備できる魔導甲冑ありますかね? あ、俺ユーリっていいます」
あっぶね、シャムスにまたクズ呼ばわりされる所だった。ズークさんからも名乗り返されほっとする。
「え? シャムスちゃんには甲冑買わないのに自分は買うの? クズなの?」
不満げななマリーがうるさい。今度はマリーにもクズ呼ばわりか。
「冗談だよ。俺だって魔導甲冑はオーバースペックだ。俺もシャムスも篭手で十分だよ」
魔導甲冑は魔法の飽和攻撃にも耐える強力な防具だ。
そんなのが必要なのは突撃の上集団を蹂躙できる肉体の持ち主か固定砲台役ぐらいだろう。
「ズークさん、そういうわけで魔導篭手の取り置きをおねがいできますかね? どちらも全属性レジストが四回はできるやつで、この娘用のはスロット八つの魔石交換式、俺用のは体内魔力供給式で」
防具の要はレジストにある。本来は自分がレジストできない属性魔法に対する手段としてつかわれるのだ。自動で発動するのも大きい。
「ふむ、面倒じゃが既製品に増槽すればええか。お前さんは既製品を自分で調整できるじゃろうが、嬢ちゃんの分は手を採寸しておいてオーバーホールじゃな」
文句をいいつつも聞き返さずにズークさんがメモを取っていく。そのそばに茶髪の少女……推定70歳のドワーフ少女がやってきた。
「なら今のうちに寸法もやっておこうかねぇ? 嬢ちゃん達、こっちへおいで」
見た目最年少なおばあちゃんに連れられて二人が魔導具スペースに移動していく。
ドワーフはエルフより若い時点で成長が止まるからなぁ。
ごくたまに先祖返りと呼ばれる、髭が生えてごつくなるドワーフが生まれるらしいけど、俺はまだ会えていない。
「先に武器を見させてもらいますよ−」
一人取り残されたので、勝手に店内の武器を見せてもらおう。
基本短武器は横に架けてあり、長柄武器は縦に立てかけられている。
「素槍、火属性刀剣、火属性槍、各属性曲刀、火属性トライデント、水と火の複属性ツインランス、火属性ウォーサイズ、火属性フットマンズフレイル、あとは一点ものの武器か……さすが港街、見事に偏ってるね」
さっきアジーザを一緒に吸っていた狩人から聞いた話の通り、この都市の狩人は水棲魔獣専門らしい。
テーベの隣にある入り江を改造し、水棲魔獣が群れで入ってきたところで逃げられないようにして狩るという。
もちろん食用もあるけど、呼び寄せるのための魚の養殖も大規模にしているというのだから組織的だ。ギルドが豪華なのもうなずける。
それにしても武器の質は良いけど選択肢がない……
俺は単身で戦わなくてはならないから、土魔法をレジストされた時は近接戦闘をしなくてはならない。
突っ込んで肉薄し、さっき頼んだ篭手でレジストし無防備となった敵と接近戦。という流れだ。
しかも魔物魔獣だけではなく多数の人間にも対応できるようにする必要がある。
世の中には上位の狩人以外にも、軍人、船乗り、開拓者といった職業に猛者がゴロゴロしている。
もちろん彼らと敵対する可能性なんて低いけど、同郷の外来者が金でも権力でも使って雇えば敵対することだってあり得る。彼らの中には俺みたいな全属性持ちの上位互換だっているかもしれない。
考えて気が滅入ってきたけど、今は相性の悪い土属性魔獣と戦えればいいさ。金も無いしね。
さっきの情報収集でこのあたりの植生は把握したから、魔物・魔獣の分布は推測できる。せいぜい稼ぐとしよう。
自分の背丈と同じくらいの手槍を手に取る。少し穂先が大身なだけで形はありふれている。けれど実は高威力の火属性付与がされているという玄人好みの一本だ。予算内で買えるし、良心的だな。
「えーそれにするの? あなた手槍向きじゃないでしょ?」
肩越しにひょいとマリーがのぞいてくる。わかったような口をきくね。
「結果がでれば問題ないだろ? そっちが目をむくような量の魔石を持ってきてやるさ」
「へー」
気の抜けた返事が返ってきた。その半笑い、あきらかに信じていないな。
マリーは興味をなくしたのか、シャムスと一緒に魔導具がおかれた一角へと戻っていった。せいぜい笑っていればいいさ。
その姿を追うと、魔導具スペースの手前の角にあるガラスケースが目にとまった。
前世では博物館などで見かけたフォルム。
「魔鉱銃……」
この世界には基本的に弓矢、銃火器は存在しない。
理由はSPにより即死しないということもあるし、魔法を含む飛び道具の弾道を曲げる風魔法のアローカットがあるからだ。
アローカットは下位魔法なので使い手は多いし、同じ効果を生む魔導具も安価に手に入る。
でも、星遺物の銃があるため、銃の概念自体は知られているし、最近まで魔導具として実在していた。それが魔鉱銃だ。
魔鉱銃はその名の通り、魔鉱を機関部に配し、加工した魔石を弾丸として打ち出すもので、着弾すれば即死級の強力な魔法も発現させる事が出来る。
本来威力減衰で届かない距離に強力な魔法を放てるのは暗殺用として相当のアドバンテージだった。
そうして生まれた魔鉱銃だけど、コスパの悪さから結局廃れていき、今はせいぜい貴族の骨董部屋にしか現存していない。何事も例外はあるけど。
思わずケースに歩み寄り、後ろにいたズークさんに聞いてみる。
「ズークさん、これは売り物ですか?」
「タメ口でいいわい。ユーリ、お前さんこれが何かしっとるのか?」
ズークさんがフランクなやりとりを要求してきた。苦手なんだよね、見た目が子供とはいえ年上にタメ口きくの。
「じゃあズークじいさんで。魔鉱銃は実物を見たことがあるんだ。だから知ってる」
「そうか……ふむ、買っていくか?」
いやいや、いきなり何言ってるの? 骨董品だよ?
「でもお高いんでしょう?」
「いんや5万ディナ。ワシが実験用に作ったものでアンティークじゃあない。頑丈じゃよ?」
5万か……しかも頑丈か……
「よし、槍とこれ買うよ。銃には槍と同じ細工をしといて。金策が出来たら防具と一緒に受け取りに来るからよろしく」
「おう、まかせておけ」
でもじいさん、そもそもなんでそんなもんつくったんだ? 拳銃じゃなくてライフルだし。
――◆ ◇ ◆――
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幼女との逃亡で始まる第三の人生〜限定解除された土魔法ならトラップ作成し放題 空館ソウ @tamagoyasan
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