僕と彼女の5分間

雪霧

僕と彼女の5分間

彼女とは、大学に入る前からの付き合いだ。


交際が始まったのは大学に入学した後からだったが、高校の頃からそれなりに仲は


良かった。


彼女のどこが好きで交際を始めたのか、よく聞かれる質問だが正直自分でもよくわ


かっていない。


ただ、気が付いたら好きになっていて、かけがえのない存在になっていて…。きっ


と彼女も同じような感覚で僕と交際をしているのだろうし、一般的な恋人というも


のはそういうものなのだろう。


彼女の好きなところはもちろん全てだ。無邪気な笑顔、少し鋭いきれいな目、自分


の研究分野について語るときの真剣さ。そしていつもそばにいてくれる温かさ。全


てが僕を幸福に導き、彼女と出会ってよかったと思わせてくれる。


彼女の作る手料理で好きなものを一つ挙げてみようと思う。なに、この話を聞いて


いる君にとってはただののろけ話に過ぎないと思うかもしれないがそんなにたいし


た時間は取らせないから少しの間付き合ってほしい。


僕が彼女の手料理で最も好きなものはオムライスだ。


材料費が安価で、作るのにさほど手間のかからない一品だが、それだけに愛情が身


に染みる。単なるオムライスではなく、卵に隠れているとろけるチーズ。栄養を考


えてか野菜を入れてくれるのも彼女の僕への愛情を感じさせてくれる。


ここまで盛大なのろけ話を聞かせてしまった。すまないと思っている。


しかし、僕はどうしてもここで僕と彼女との関係をまとめておきたかった。これは


僕自身に、僕自身の彼女への愛を確かめるために必要な行為だった。


今、台所の方を見ると彼女がこちらのほうを見て笑顔を見せてくる。


時間は午後7時55分。2018年8月18日の午後7時55分だ。


5分後の午後8時00分、彼女は家に入ってきた強盗に襲われて命を落とす。彼女の死


は世界の決定事項であり、今まで僕が何をやっても彼女の死は止められなかった。


これは僕にとって136回目の彼女の命の最期の5分間。


1回目、彼女が命を落としてから、僕はこの5分間を何度も繰り返している。


まだ僕は大丈夫。いくら彼女の死が世界の決定事項だとしても僕はまだあきらめて


はいない。諦められるものか。


玄関の扉が勢いよく開く。そろそろ強盗たちが来る時間帯だ。


そっと彼女の方を見る。驚いた顔をしている彼女。


大丈夫、俺が必ず守る。


そう心に誓い、137回目が無いことを祈り


僕は前へ進む。

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僕と彼女の5分間 雪霧 @yukikiri3880

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