第4話
クロガネ語り
「おいおい、なんだありゃ? どこのどなたがあいつらに舟なんてものを差し上げたんだ? おいおいおいおい、なんの冗談なんだこれは? 本気で笑えねーっつーの」
水際に立つおれ。沖にむかって遠ざかる舟を目で追った。もうかんぜんに矢の届く距離ではなくなった。目をこらして見ると、ばちゃばちゃはねる白いしぶきが、舟の後ろから上がっている。ったく。まさかだよな、あれは。本気のバカしかあんなの思いつかねーっつーの。
「クロガネどの」
「なんだ?」
「しかしあの舟はいったい? この年まで生きてまいったが、あんなものを見るのは初めてで」
ミノの武将のひとりが、びびった顔で沖を見ている。
「あ? 舟を見たことがないってか?」
「いやいやいや、そうではありませぬ。しかしあの、進みよう。尋常な速さではありませんぞ。まるで鬼神があやつっているかのような」
「べつに不思議でもなんでもねー。ったくこれだからニンゲンってやつらは」
おれは水の上に唾を吐く。
「ただ単に馬鹿力の妖狐がうしろで水を蹴ってるだけだ。いわゆるバタ足って言うやつ? あれだ。あいつはろくに泳法なんてものは習ってないからな。ガキみたいに適当に水を蹴ってるだけだ。本気のバカだあれは」
「しかしクロガネどの、」
「だから何だってんだよ?」
「あちらの妖狐にそれができるのであれば、あなた様もやはり?」
「は? おれ? おれが何だ?」
「いえ、ですからの、もしあれでしたら、クロガネどののお力で、あの舟を追って頂けたらと。それをいま思ったわけですが、その――」
「あ? なんだと? まさかおれに泳げってか?」
「ま、言えば、そのような」
「バッカ野郎っ。言っとくがおらぁカナヅチなんだ」
「ほう?」
「ほう、じゃねえ! ったく、わざわざ言わせんなっつーんだ馬鹿野郎」
「お、これは、すまぬことで」
「おいあんた、そんな神頼みみたいにおれに泳げとか言う暇あったら、ちょっとでも追う努力をすりゃどうなんだ? 手配したのかよ、追撃の水軍を?」
「や、カタタのまわりの村々はしがない漁村ばかりで。水軍勢など――」
「じゃあなんだ? このまま見てるだけか? ミノ軍ってのはその程度のバカの集まりってことか?」
「いや、その、必ずしもそういうわけでは、」
武将はきまりわるそうに目をそらす。
「ここより北、マイコという場所には、マイコ衆と呼ばれる豪族のおさめる港町がありもうす。そこまで行けば、少しはまともな軍船の十や二十、すぐにでも手配できると。さいわいマイコの衆はすでにミノ軍に帰順しておるので」
「だったらすぐに伝令を出せや。こんなとこで油売ってんなよなおまえ。あ?」
「しかしその、クロガネどの」
「だから何だっつーんだ? まだ何かあるってのか??」
おれは言葉をあらげる。
「や、その、逃げたとはいえ、しょせん、死んだマンシューの娘とこわっぱの妖狐ひとり。大軍をけしかけて捕える殺すのさわぎを演じるほどの獲物であろうか? そこのところが、わしにはまださっぱり――」
バシッ!
おれはその馬鹿を蹴った。蹴られた馬鹿野郎は雪を散らしながら浜の上を転がって倒れた。
シバタどの?
これは乱暴な
なにごとか??
まわりの兵たちがざわめく。
「んなことはテメーが決めることじゃねーんだボケがッ。おい、いいかてめえら、よくきけ」
おれが野太い声を出すとその場のざわめきは一瞬で消える。
「こいつはほかならぬイナリ様の御意向なんだ。イナリって言ってもわかんねーやつは、ヒガシヤマ殿って言えばわかるか? 皇家の血脈につながる雲の上のお人だ。知ってるよな、おまえら? あ?」
皇家の血脈、というところは嘘。おれ流のはったりだ。だがしかし、ヒガシヤマの名は、馬鹿でも誰でも知ってる。恐るべき妖狐衆の上にたつ、ひときわ恐るべき妖の公卿。強勢をほこるミノのトヨオミ家でさえも、ヒガシヤマの顔色をうかがわねば戦ひとつできない。かつて全盛をほこったオワリ国のオリダ家でさえ、ヒガシヤマを敵にまわしたためにあえなく滅亡。十一万のオリダ軍はひとり残らず死んだ。オワリ国は村ひとつまですべて焼かれた。
「だから、だ。つべこべ言わずに追え。追いつめて、殺せ。それが命令だ。それができなきゃおまえら、イナリ様の手をかりずともおれが残らず蹴り殺す。ひとり残らずだ。んでから殺す前に、ひとり残らずキンタマをつぶす。以上。わかったらさっさと船を手配しろや。あ?」
「わ、わかりもうした」
ミノの武将は雪と砂にまみれて立ちあがり、ぶざまによたよたと走り去る。とりまきの兵たちも、あわててその後を追う。それを横目で見ながら、おれはふぅっと長い息を吐く。目をふたたび湖の上にむける。舟はもう、水平線近くの一点にすぎなくなっている。
「それで? お前は走らないの? ずいぶんと偉くなったのだね、おまえ?」
「ああ? なんだと? 誰に向かって言ってやがる。てめえ、どこのガキだ?」
殺気をびしびし飛ばしながら、おれはふりむいた。
「げっ。ヒスイ??」
おれは大きく後ろにとびすさった。
そこに立つのはひとりの可憐な、
そう、娘だ、あれは。見た目だけは。
目の覚めるような浅緑の地に、吠える妖狐の紋を白抜き。なかなかしゃれた長衣を着てる。雪風に流れる長い髪。髪の色は、雪の中ではひどく目立つ新緑の色。瞳の色も、髪の色と同じ緑。年はよくわからんしおそらく意外といってるはずだが、そいつのすらっとした立ち姿は、十六、七の娘に見えなくもない。認めたくはねーが、おそろしいほどの別嬪。だが、こいつはいちばんおれが関わりたくない女。できれば声すら、ききたくは――
「? 何を見ている?」
「な、なんであんたがここに??」
「イナリ様のご命令。おまえと同じ」
「だ、だがあれだろ? アケチマンシューとその娘に関しては、全部おれに一任するってゆー話だったんじゃ――」
「たしかに昨日までは。でも今は、そうではなくなった」
そいつは唇の端で笑った。が、目はまったく笑っていない。
「聞くところによると、サカモト城よりアケチの娘を取り逃がしたとか。大勢の追っ手をかけたが未だにつかまらぬとか?」
「む、」
「あまりの不甲斐ない知らせに、しびれをきらせたイナリ様がわたくしをここに送ったのだけど。どうやら一足遅かったようね。きけば、なんでもコハクが裏切ったとか? それは本当?」
「む、ま、そりゃ、本当って言えばそうなんだが、」
「おまえ、その場にいて裏切りを止めなかった?」
「や、そりゃまあ、おれなりに止めたのは止めたわけだが――」
おれは必死で言葉をさがす。心臓が、本気でバクバク鳴った。やばいやばいやばい。
「でも止めれなかった?」
「そりゃ、ま、その――」
「そしてまんまと取り逃がしてしまった?」
ザッ。
そいつが一歩、おれにつめよる。
「わたくし、それを聞いたときはにわかに信じられなかったのだけど。でも本当にそうなのね? ん? まさかこの世にそのような大馬鹿者が存在するなどと、わたくし想像すらもできなかったのだけど? だけど本当にそうなのね?」
「おい、待てよヒスイの嬢ちゃん。それはちょっと穏やかじゃねーな、その言いよう、」
言いながらおれは、じりじりと五、六歩、うしろにさがった。
「な、なあヒスイちゃんよ、たのむから穏やかにいこうぜ。ま、言ってみりゃあれだ、世の中にはあんたの想像をこえる馬鹿ってのも、やはりどこかにいるってわけでよ、はは、やっぱ世界は広いっつーか、」
「なるほど。でも残念、その広い世界もいま終わるかも」
「あ?」
「言ったら? どのように死にたい? 心臓? 首? 希望くらいは聞いてあげる」
「お、おいおいおい、あいかわらず冗談きついなヒスイの嬢ちゃんは」
おれは大声で笑った。笑いながら、本気で冷や汗をかく。やばいぞこれ。どうするおれ?
「だ、だけどあれだ、あれだよな、」
おれはてきとうな言葉をそのへんから拾ってきて時間をかせぐ、
「や、やはりさすがはイナリ様、この短時間のうちにすべて細部までお見通しってわけだな。打つ手が速いつーかなんつーか、さすがは精強で鳴らした妖弧衆をたばねる――」
おおっ??
どうやらおれの体がうしろに飛んだ、らしい。そいつの脚が、おれのあごをまっすぐとらえたのだ。おれはぶっとんで水の中に落ちた。つつつつつ、歯が折れたな、これは。
だがしかし、まったく見えなかった。あいつの脚の動き。あいかわらずバケモノだ。
「わたくしの前で、二度とそのような安っぽい追従をのべないで。その手の実のない言葉が何よりも嫌いなの、わたくし。次に言ったら殺します。本気よ、わたくしは」
ジャッ。ジャッ。水を踏んで、そいつがおれの方に。
「ままま、まってくれまってくれヒスイの嬢ちゃん。まずは話し合おうぜ、な? な?」
「話す? 何を? 声が汚くてわからないのだけど?」
「き、聞いてくれよ嬢ちゃん。おれとしちゃ、まだ完全にやつらを取り逃がしたと決まったわけではないってわけで。今しがた、おれらの乗る船を探しに兵を走らせたわけで、おれもすぐにこれから―― ……!!」
おれは最後まで言えなかった。風のように素早い一撃。おれは浜の上をころがり、今度は泥の中に落ちた。汚ねえ泥がたっぷり口に入る。げほげほげほげほ。
「ああ嫌だ、脚がぬれてしまった」
そいつは嫌悪に満ちた表情で、ぬれた足先を左右にふる。ばかやろ、濡れた足よりもおれの心配をしろっつーんだよてめえ! ぶっ殺すぞ! ってか、それ言ったらおれの方がぶっ殺されるわけだけども。
「とにかくこれ以上時間をむだにするなら、わたくし、おまえの心臓を蹴破って水に沈める。それともやはり、できそこないのその頭を割るほうが良い?」
「けけけ、けっこうですけっこうです、どっちも遠慮させてもらうってことで。んじゃ、おれもひとっぱしりマイコって町まで――」
「もうよいから消えろ」
そいつがドスのきいた声を出す。おれは泥をかぶった汚ねえ着物のすそを両手でつまみあげ、本気の全力でそこから走り去る。とりあえず、逃げる。できれば二度とあいつを見たくもねーが、どうせまたどこかの先で会うんだろうな。そのとき機会があれば、まちがいなくぶっ殺す。ぜってー殺す。あのお綺麗な顔が半泣きで命乞いするまで殺しまくる。ま、もちろん、それができればの話なわけだが。んでからその前に、おれが綺麗に爽快にまっすぐあいつにぶっ殺されなければの話だけれども。
コハク語り
夜になると雪はやんだ。おれはまだ舟をおしてバタバタ泳いでいる。すぐにどこかの岸に着くだろうと思っていたが、それは間違いだった。湖は想像よりもはるかに広かった。泳げど泳げど、陸の影すら見えない。ここはビワの海と呼ばれていて、天下でも一二をあらそう大きな湖なのだと、さきほどサクヤがそれをおしえてくれた。サクヤはいろいろなことを知っている。さすがはヒメだ。おれはヒメではないから、色々なことを知らないのだが、サクヤがいれば、おれも少しはかしこくなるかもしれない。
「ねえコハク、そろそろ休めば?」
舟の上からサクヤが言った。
「もうすっかり夜だ。さすがにミノもここまでは追ってはこない」
「おれはまだつかれていないから大丈夫だ」
「おまえは大丈夫でも、見てるあたしが疲れる。たのむからちょっと休んで。あがって、ほら」
サクヤが舟の上から手をのばした。おれはとりあえずその手をつかみ、水から上がった。さっきまであったバチャバチャ水のはねる音がなくなって、あたりはすっかり静かだ。もう本当に夜だ。暗くて何も見えない。
「ほんとに信じられないんだけど、それだけぬれてもおまえは寒くないの?」
サクヤがあきれた顔でおれを見る。
「少しは寒いのだ。真冬の水は、あたたかくはないのだから。だが、がまんできないほどではないから心配はいらないぞ」
「まったくヨウコっていうのは、つくづく頑丈にできてるんだな」
「おれからすればニンゲンがすこし弱すぎるのだぞ」
サクヤは答えずに、両手で自分の肩をだいてきゅっとちぢこまった。
「なんだ? サクヤは寒いのか?」
「寒い」
サクヤが白い息をはく。そういえば、声も少しふるえている。
「これで寒くない方がどうかしてる。ふきっさらしの水の上だ。風だろ、それに水。肩からかける布もない。やれやれ、せっかく逃げれたのに、これじゃぜんぜん――」
「もう少しこちらによればどうだ? 体をくっつければ少しはあたたまるぞ?」
「ば、ばかっ。よせよそんな……」
サクヤはつっぱねた。顔が少し赤い。
「それだけびしょびしょのお前とくっついたら、こっちまで濡れてしまう。いいよ、よけいな気はつかわなくても。とりあえず何もせず休んでな。朝から走って逃げ回って、こんどは水も中を泳ぎっぱなしだ。いくら体がつよいといっても、少しは休まなきゃ、あとあともたないぞ」
「では、休むぞ」
おれは舟の上で足をのばした。たしかに、だいぶつかれた気がする。昼にウドンを食べて元気になったのだが、ウドンの力も、いつのまにか消えてしまった。押す者がなくなった舟は、ぷかうかと水の上をただよっている。右にいったり左にゆれたり、ゆっくりまわったりしている。風はあるが、それほどでもない。空をおおっていた雲が少しだけ晴れて、あいだから星がのぞいた。
「なあコハク?」
「なんだ?」
サクヤのほうを見ずにおれは言った。
「ありがとな。いろいろ助かった」
「? 急にどうしたのだ?」
「いや、なんだろ、あたしたちまだ完全に逃げれたわけじゃないけど、だけどまあ、今日一日はなんとか生き延びた。おまえがいなかったら、あたし、四回くらい死んでたかも」
「四回は死ねないだろう」
「とにかく、助けてくれてうれしかったってこと。感謝してる。ほんとに、ほんとに」
「む、」
おれはちょっと照れた。誰かに正面からそんな風に言われるのは初めてだ。しかもそれを言ったのが美しいニンゲンのムスメで、おまけにヒメで、おまけにそのヒメはサクヤなのだ。おれはとてもどきどきした。
「あのさコハク、」
「なんだサクヤ?」
「おまえさ、おまえ、」
「? なんだ? なにか言うことがあるのか?」
「おまえ、あたしを置いてひとりで行きな」
「? なにを言っているのだ?」
サクヤのほうを見た。サクヤはあいかわらず遠くを見ている。おれはサクヤの心がきゅうにわからなくなった。
「あいつらが追ってるのは、おまえじゃなくあたし。あたしの命が欲しいんだ。あたしがアケチマンシューの娘だから、許してはおけない。そうだろ? 違う?」
「もちろんそうなのだ。だがそれが何だ?」
「つまり、あたしから離れていれば、おまえは危なくないってこと。わかるか? おまえにすごく迷惑かけてるんだ、あたし。だからこれ以上、おまえをアケチ家の戦に巻き込むことはできない。だから、」
「だから、何なのだ?」
「だから、」
サクヤはそう言って、まっすぐおれを見た。とてもまじめな顔をしている。
「夜が明けてどこかの岸についたら、そこで別れよう。あたしはひとりでワカサを目指す。だからおまえも、ひとりでどこか好きな場所へ行きな。それがたぶんいちばんいい」
「よくないぞ、それは」
「なぜ?」
「サクヤはおれほど強くはないのだ。またミノの軍がきたら、すぐに捕まるか殺されるだろう」
「ふふ、ずいぶん下に見られたねあたし。おまえ、あたしの槍の腕前を知らないの?」
「知らない。それにサクヤはいま槍をもっていないだろう」
「槍くらい、どこかで拾う。あたしが本気になったら、ミノの兵の二十や三十くらい、ひとりでも追い返せる」
「ミノの兵はもっと多いし、あっちにはクロガネもついているのだ。サクヤはクロガネに勝てない。おれでも勝てるかどうかわからないのだぞ? しかもクロガネの上には、イナリさまもいるのだ。おそろしいヒトだ、イナリさまは」
「とにかくだ」
サクヤがいらっとした声を出す。
「おまえはあたしの心配をしなくていい。おまえ自身を心配しな。あたしといる限り、おまえには、死ぬ死なない、殺す殺されるの話がいつでもつきまとう。そんなつまらないことに自分の命をかけるな。そんなつまらない――」
「つまらなくはないぞ」
おれは言う。
「おれはサクヤがとても好きなのだ。好きなヒトをまもるのは、つまらないことではない。おれの命くらい、いくらでもかけるのだ。おれが死んでも、サクヤが死ななければよい。だからおれはサクヤと行く。ワカサへ、無事にサクヤを送るのだ。もしもワカサも安心な場所でなければ、それより先へもついていくぞ」
「な、なにバカなこと――」
サクヤは言いかけて、目をそらした。その目にうっすらと涙がうかんだ。
「サクヤ? どこか痛いのか? それとも寒いのか?」
サクヤは首を右左にふる。
「ちがう。そんなんじゃない」
「では何なのだ?」
「……おまえとあたしは、今朝、会ったばかりじゃないか。なのに命にかえてもあたしをまもるとか。ほんとにバカじゃないのと思って、」
「……む、おれはたしかに、アタマはあまり良くないかもしれないが――」
「おまえ、何でそんないいヤツなの? なんで?」
サクヤの目から、涙がぽろりと落ちた。
「なぜ泣く? おれがまた何か、悪いことを言ったからか?」
「そうじゃない。そうじゃない。もうだまってくれコハク。ちょっとしずかに考えたい。いいからもう、だまって」
「む、ではおれはだまるのだ。もしおれがさっき何か言ったことで悲しくなったのなら、おれはあやまるのだ。すまない。おれはサクヤは悲しませることはしたくないのだ。すまなかったぞ、サクヤ」
サクヤは答えない。流れる涙を手でぬぐうこともせず、じっと、遠くのどこかを見ている。ためしにおれもそっちを見てみたが、見えるのは闇だけだった。
サクヤは何を見ているのだろうか。なぜ、泣くのだろうか。いまひとつよくわからなかったが、泣いているサクヤを見ると、おれまで悲しくなる。このヒトが、もう今度は泣かなくて良いように、おれがしっかりこの手でまもらなければ。そう思った。たぶんおれがとてもバカでいろいろたくさん失敗するから、だからサクヤは泣くのだろう。だからおれはこのあとは、もっと本気でがんばって、失敗をひとつもしないようにして、バカではないようにして、サクヤが泣かないようにするのだ。そうだ。そうしなければダメだ。
空を見ると、雲がどんどん晴れていた。湖の上は風は弱いのだが、空の上の方は風が強いらしい。吹き流された雲が、散り散りになって細く長く尾をひきながら遠くにのびていく。そのむこうには、星をちりばめた夜の空があった。
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