第30話 エピローグ

 一週間後――。

 俺は相変わらずのジャージ姿でみんなと一緒に王都へ顔を出す。今度はちゃんと正門から入って王城の客室へ案内された。

 兵士たちは皆一様に緊張しているのが見て取れたが、侍女らは少し雰囲気が異なる。彼女らは遠巻きにつばさを見てヒソヒソと何やら囁き合っていた。

 俺? 酷い話だけど、前回の王城での騒動は全て新魔王たる俺がやったことになっている。

 しかし、新魔王は以前の魔王と異なり王へ対話を求め王はそれに応じた。友好の証として王は目に入れても痛くないか弱き姫を新魔王は一番の側近であり妾の美少女を無防備にして交流させることとしたとかそんな感じになっている……らしい。


 あの王様、印象操作だけは抜群にうまい。王様が大幅に譲歩し、新魔王はそれに応じ和平したってことになっとる。

 俺だけでなくみんなも少し呆れはしたものの、王都で自分たちがどう思われようがさして問題ではないと考えだ。むしろ、王様が喧伝すればするほど俺たちと事を構えることはないと思うから歓迎してもいいかなとね。

 

「じゃあ、つばさ、後でな」

「ふう……仕方ないわね」


 つばさは眉尻をあげ不機嫌そうな様子だったが、王女が顔を出すとパッと表情が変わり微笑さえ浮かべていた。

 営業スマイルって怖い……。

 つばさと別れた後、あの王様が俺を歓迎なんてするわけないので彼女を迎えに行く時間まで暇を持て余してしまうんじゃないかと思っていた。しかし意外にもあの時王様の隣にいた壮年の男(実は大臣だった)が、彼の執務室に俺たちを呼んでくれる。

 

「勇者……いや新魔王殿、約束通り来ていたき感謝を」

「いえ、俺も人間ですし血みどろの争いはしたくありません。こちらこそうまくまとまってよかったと思っています」


 入室して早々、大臣は俺たちへ感謝の言葉を述べた。お、この人はまだ話が分かる人なのかもしれない。

 なんて思っていると、大臣はパンパンと手を叩く。すると、ドアが開きお盆にポチ袋を乗せたメイドが入室してくる。


「この街のお金をお持ちではないでしょう。多くはありませんが、お使いください」


 俺は確信した。この人はいい人だ。うん、そうに違いない。

 しかし、ここは安易にお金を受け取っては……っておおおい、あっさりとまりこが受け取ってしまったじゃねえか。

 まあいいか。


「みんな、つばさが戻る時間まで街に行ってきていいよ」

「良辰くんはどうするの?」

「ちょっと、この人と話をしたいんだ」


 ここまで言って俺はハッとしたように大臣に目をやる。彼はにこやかにほほ笑み軽く頷きを返したのだった。

 ふむ。彼ならば「いいお話」ができそうだな。俺はニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 

「良辰くん、また悪い人の顔になってるよ。えい」

「え、ちょ」


 まりこにほっぺをつままれた。


「でしたら、自分も失礼して……」

「じゃあ、わたしもー」

「うひゃああ」


 萃香とゆめに両側から耳にふーふーされる。

 ゾクゾクするからそれはやめような。


「わかった、わかった。お昼には合流しよう。お昼になったらここに戻って来てくれるか?」

「はあい」


 彼女ら三人は予め打ち合わせたかのように揃って可愛らしく舌を出し扉の外に出ていく。


「仲のよろしいことですな」


 カカカと大臣はからかうように目を細める。

 

「ま、まあ。そんな感じです。ところで大臣――」

「そうですな……。新魔王は会話が成立する。つまり……」

「そういうことです」

「あなたは思った通り、なかなか話のできる男ですな。お互いにとって損はないと思ってます。内容を詰めて書面をかわしましょうか」

「まずは大臣と俺の間だけの取引にしませんか?」

「それがよろしいかと。その後、商人にまで手を広げましょう。あなたのところにいる騎士リムルなら書類作業にも強いでしょう。ご自由に」


 あの女騎士の名前を未だに聞いていなかった。そうかリムルって言うのか。まあそれはいい。大臣からお墨付きをもらったことだし彼女は魔王城で働いてもらおう。

 現状捕虜という扱いになっている。誤解がないように言っておくが、俺たちは彼女を一切拘束していない。彼女が帰らないだけなのだ。

 

「分かりました。まずは取引をできる状態にしましょう。後々、技術者……特に農家の人を数人招きたいです」

「ほうほう。その顔……何か策がありそうですな」

「分かりますか……バナナがあれば……ははは」

「カカカ……分かりましたいずれ派遣しましょう」


 俺と大臣はお互いにニマアと悪い笑みを浮かべる。

 モンスターたちの中で何もせずウロウロしているだけの奴らがいるんだ。それはアンデッドのみなさんたちになる。

 生きていくのに飲食も睡眠も必要ない彼らはずっと力を持て余しているのだ。

 ヒビキにバナナを与えて農作業でもしてもらえれば、金銭収入が見込める。そのお金を使ってアンデッドのみなさんの好きな物(あるのか分からないけど)を揃えることだってできるじゃないかって考えなんだよ。

 食料が増えるのは誰にとっても悪い事じゃあないからさ。

 また他のモンスターにもそれぞれ仕事を与え、その代わり食料や水、寝床を提供しようと思っている。どれだけかかるか分からないけどなあ……。

 

 なあに、それぞれの特性を見てゆっくりじっくりと考えていけばいいさ。考えるのは俺一人じゃない。きっといいアイデアが浮かぶだろう。

 

「大臣、これはお近づきの印にどうぞ」

「これは……非常に高価な懐中時計に見えますが、財宝ではないのですか?」


 俺の手渡した懐中時計を手に取り、機械の作りの精密さに大臣は目を見開き驚いている様子だ。

 これはここに来る前、日本で購入した懐中時計になる。異世界に時計があるのか無いのか分からなかったから持ってきたが、彼の口ぶりからすると時計はあるみたいだな。

 俺は何も善意だけでこれを彼に渡したわけじゃない。取引を行うにあたって「どこどこの何時に」って話は必ず出てくる。その際に時間が分からなかったら大臣だけじゃなく俺も困る。

 ずっと異世界にいるわけじゃないからさ、時間は有効に使いたい。

 

「勇者の国にある時計です。時計はお持ちでしたか。出過ぎた真似を」

「いえいえ、お気遣い感謝いたします。これほどの懐中時計、本当にいただいてよろしいのですか?」

「もちろんです。正確な時間はお互いの取引に重要でしょう?」

「ふむ。あなたは抜け目ない。これは楽しみだ。カカカ」


 ◆◆◆

 

 大臣と別れた後、まりこたちと王都でショッピングを楽しみ、そのことを知ったつばさをなだめつつ魔王城へ帰還する。

 魔王城へ戻ってから、女騎士やハル達を含め全員を大広間に集めて俺の今後の計画を話す。結果、皆がみんな楽しそうと賛同してくれた。

 元魔王の領地は、自給自足できて王国との貿易で栄える一つの国家を目指す。

 国家といっても……人数は少ないから共同体と言った方がいいかな。いろいろやれることが多くて、何から手をつけるか悩ましいけどとてもワクワクする!

 

「面白そうね。上下水道も欲しいわね。魔法で何とかなりそうだけど」


 とつばさ。彼女の膨大な知識は技術開発に向いているだろう。

 

「お兄ちゃんー、牧場が作りたいなー」


 動物好きなゆめは目を輝かせている。

 

「わたしはハーブとか植物を育てたいなー。あと絵も描きたいかな?」


 ぼんやりしているように見えて意外にしっかりとしたところがあるまりこ。

 

「同志! 自分は探検がしたいであります!」


 好奇心旺盛で恐れを知らない萃香は領地の地図作りを任せてみようか。

 

「ご主人様、ボクはご主人様についていきます!」

「よっしー、バナナを寄越すみゅー」

『グゲ……』


 彼らは相変わらずだな。俺の顔にクスリと笑みがこぼれる。

 

「さあ、ゆっくりとやっていくことにしようか。みんな」


 俺はそうみんなに呼びかけると立ち上がり、大広間の外へ向かう。後ろからみんなの足音が聞こえてくる。

 さあ、やるぜ!

 俺は手を振り上げ、パアンと両手を打ち鳴らす。

 

 おしまい

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日本←→異世界をハーレムパーティで挑むなんて間違ってる!? うみ @Umi12345

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