第29話 黒い和平
つばさ、萃香、俺が横並びになり同じように腕を組み不適な笑みを浮かべ扉を睨みつける。
その後ろでよくわかってない感じのゆめとまりこが首を傾けてぽやあとしていた。
「萃香、やるぞ」
俺の掛け声に萃香はシャキッと敬礼ポーズを取りおもむろにRPG-29を出現させる。
「同志! 待ってました。では、作戦決行であります!」
萃香はRPG-29のトリガーを引く。
赤い尖端のミサイルが扉に向けて飛んでいき――
凄まじい爆音をあげて扉が消し飛んだ。
「よくやった。萃香。ははははは」
「ふふふ。さすが早瀬さんね」
俺とつばさの笑い声が重なる。
悪ノリしている感が半端ないが、これはれっきとした作戦なのだ。
これだけ大きな音を立てると、ほらやって来た。
「何事だ!」
「大きな音がしたぞ!」
兵士たちの怒号が心地よい。
次は俺の番だな。髪をかき上げ、目を瞑る。
「同志! 次行くであります!」
ちょ、待てえ。萃香は俺の動きなど待たずRPG-29に次弾を出現させ装填してしまった。
「萃香! ミサイルはヤバいってえええ」
止める声も虚しく萃香は容赦なくRPG-29をぶっ放してしまう。
「大丈夫よ。叶くん。あれは……」
つばさの声が終わらぬうちに、発射されたミサイルが扉のあった場所に殺到する兵士に着弾する。
思わず目を瞑る俺だったが、爆発音はしない。
不思議に思って目を開けてみると、扉のあった奥の部屋に白い煙が充満しているではないか。
「あ、あれって催涙弾か何かなのか?」
「そうであります。あれで無力化するんです」
しかし、まだ動く影が見える。
人にしては大きいなアレ……。
「まだ油断してはいけないみゅー。もぐもぐ」
「食べるか喋るかどっちかにしろ、ウサギ」
「もぐもぐ、ゴーレムみゅ、もぐもぐ……王の魔道ゴーレムみゅ……もぐもぐ」
聞いちゃいねえな……ヒビキの奴。説明してくれるのはありがたいが、何だかスッキリしねえ。
見た所、影の様子からゴーレムの数は四体か。
煙が晴れ、中からゴーレムが出てくる。予想通り数は四。ゴーレムは身長三メートルほどの巨体を誇る人型だった。ブロックを積み上げて作成したような四角い体躯をしており、顔に当たる部分も立方体になっている。
顔はのっぺりしていて、円形の小さな目があるのみだった。
奴らは一斉に背中に装備していた弓を取り出し……。
「ま、まずい。飛び道具が来るぞ」
「お兄ちゃん、任せてー。ペンたんー来てー」
ゆめの呼びかけに応じ、空に魔法陣が浮かび上がるとペンギンもどきが空から落ちてきて俺たちとゴーレムの間に立ちふさがった。
ペンギンもどきは大きく息を吸い込み――
――クエエエエエエエ! と物凄い咆哮をあげる。それと同時にゴーレム達から矢が飛ぶ。
しかし、ペンギンもどきの口から吐き出された冷気は矢を床に落とし、ゴーレム達をカチンコチンに凍らせる。
何気にペンギンもどきが俺たちの中で一番強いんじゃないのか? 俺の虫だってこの冷気には耐えられないだろうし、萃香の武器もつばさの拳も……これには敵わないだろう。
突入、突入。
動くものがいなくなったところで、俺たちは城内へ侵入した。
王城のだいたいの作りはあの女騎士から聞いている。どうやって聞いたかって? それは……秘密だ。
王様がいるとすれば玉座の間か寝室だろう。ひょっとしたら逃げ出そうとしているのかもしれないけど。
あああ、扉に鍵がかかってやがる。
「面倒ね」
つばさに拳が扉を吹き飛ばす。勢い余って扉がくっついていた周辺の壁まで吹き飛ばしてしまった。
「間取りは覚えているわ。こうしましょう」
彼女は吹っ切れたのか、プッツンしたのか分からないけど、今度は扉ではなく壁をぶち壊す。
パラパラと破片が舞い散る中、俺たちは開いた穴を通り抜ける。
その先はお待ちかねの玉座の間だった。
お、あの顔は忘れもしないケチな王様だ。それに痩せこけた壮年のひょろ長い壮年の男、俺たちと同じくらいの歳に見える銀髪の女の子の姿も見えた。
更に彼らを護る役目を負っているのであろう、全身鎧を身に着けた兵士が四人。
彼らはみな一様に突然破壊された壁に驚いている様子でで目を見開いた。
「く、曲者!」
「ここは任せて、叶くん」
つばさは電光石火の勢いで、兵士たちが身構える前に綺麗なアッパーカットをぶち込んだ。
弧を描きもんどりうって倒れる兵士たち。
「お、お前たちはあの時の……魔王城にいるんじゃなかったのか」
王様が絞り出すように声を出す。
「税金が欲しいとか使者さんが来ましてね。お金をここに持ってこいと言われましたんで、来たんですが?」
言葉とは裏腹に俺は手を組み、バキバキと音を鳴らす。
それに対したじろく王様。ひいいと悲鳴をあげる壮年の男。銀髪の少女は事態が理解できてないらしく固まったままだ。
「そ、そうだったのか……か、金は……」
王様の言葉が終わらぬうちにドゴーンと物凄い音が響き渡った。
音につられて目をやると、つばさが床に拳を打ち付けているではないか。もちろん、床は見事に破壊されている。
「王様、私は回りくどい話が嫌いなの。何が言いたいのかわかるかしら?」
「も、もう関わらん、そ、それでいいか?」
王様は腰が抜けたようで、逃げ出そうにも玉座に座ったまま立てない様子だった。
「ねえ、叶くん?」
「な、なんだろう」
つばさが突然俺に話を振ってきたから、ドキリとする。
「王様の言葉って信じられるかしら?」
「正直、信用はおけないな……」
これまでの態度から王様は隙があれば俺たちをあっさりと裏切るだろう。
どうしたものか。
「す、素敵……」
「ひ、姫、何をおっしゃいますやら……あれらは賊ですぞ」
ほう、姫とな。あの銀髪の少女は壮年の男に姫と呼ばれている。
なるほど、なるほど。
「叶くん、あなた、とっても悪い顔しているわよ?」
「何を言ってるんだ。つばさだって」
「ふふふ」
「ははは」
俺とつばさは嗤いあう。
そうだな、そうだな。うん、姫か。姫だよな。
「その悪魔のような笑い声も素敵です! お姉さま!」
銀髪の少女は胸の前で手を組み、頬を染める。
「つばさ、素敵だって?」
からかうようにつばさへ声をかけると、彼女は腕を組み顎をあげ目を逸らす。
「そ、そんな趣味はないのよ。ど、どうせ好かれるなら女子にではなくあなたが……」
「ん?」
「何でもないわ!」
蹴られた。からかいすぎたか……。でも、つばさのあんな困った表情は一見の価値はあったぞ。
「さっきから何を言っておるのだ。アリシア……」
「こんなに素敵な方に今までお会いしたことありませんわ。お父様はこの方たちをご存知なのですか?」
「こやつらは勇者だが……」
「まあ、勇者様なのですか! ますます素敵です。ああ、お姉さま……」
王様は銀髪の少女――王女との会話で死んだ魚のような目になる。
「勇者らよ。お主らの顔を立て税は免除しよう。その代わり条件がある」
王様はようやく俺たちと交渉する気になったようだ。条件をつけてくるってことは王様も約束を守るということに他ならない。
「何でしょうか?」
「条件は二つだ。一つ、月に一度、そこの娘を連れて王城に来い。二つ目、門から平和的に訪ねてきてくれ。以上だ」
「了解しました。今日のところはこれにて……一か月後にまた会いましょう」
どうやら王様は王女を溺愛しているようだな。まあ、相手がつばさだからこういう条件を出してきたのだろう。男相手なら逆に王様の敵対心をこの上なく煽っていたかもしれない。
しばらく様子を見てみないと本当に約束が履行されるか分からないけど、うまくいってくれることを願う。
こうして俺たちは憔悴しきった王様と恋する乙女な王女に手を振り、この場を後にしたのだった。
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