第28話 王都突入

 何故か帰ろうとしない女騎士……彼女の姿を見て俺はとあることに気が付きポンと手を叩く。


「そうか、鎧が無くなったからか。道中が危険だよな」

「……そ、そうなのだ。うん、鎧が無いとな」


 いっちーに溶かされてしまって彼女の鎧は使い物にならなくなっている。いっちーの腐食液?はとても都合よくできているらしく、布には一切ダメージがない。

 でもさ、モンスターはヒビキが制御してるんじゃなかったっけ。

 

「ウサギ、この使者さんを襲わないようにってできる?」

「みゅ? みゅーの使役したモンスターなら大丈夫みゅ。でも、モンスターはこの大陸にいっぱいいるみゅ」

「それって熊とかと同じで自然に棲息している奴らかな」

「そんな感じみゅ。猛獣と同じと考えていいみゅ」

「ふむ……」


 ウサギに頼んで護衛をつけりゃ安全に帰還できるだろうけど、俺があの王の使者にそこまで気を使う必要はないだろ。そんなことをしたらますます調子に乗るに違いない。

 結論、女騎士は放置だ。魔王城は部屋があまりまくってるから、適当にすごしてもらおう。

 

「みんな、王様との衝突は必須だと思うんだ」


 俺は女騎士へ目をやりながら、全員に声をかける。だから俺は女騎士からMPの増加と回復速度を早めることを聞きたかったんだ。

 俺たちのスキルは魔王軍をものともしなかったことから、王国の兵士など軽く捻ることができると思う。しかし、MPに限りがある。そこが弱みだろう。

 まあ、ヒビキに協力してもらえればこれまで通りの均衡を保てるはずだけど、ヒビキはいつ変な方向に動くか分からないからなあ。

 

「そうでありますか、なら……王都へ攻め入りましょう、同志!」


 俺の言葉に即座に反応した萃香は右手を高くあげ意見する。か、過激派だな……相変わらず。こちらから攻め込むことは考えに入れてなかったよ……。

 戸惑う俺へつばさが顎に手を当て言葉を挟む。

 

「早瀬さん、なかなか鋭い考察ね。最善手かもしれないわ」


 え? 意外にもつばさが萃香の意見に賛成した? 

 それに感極まったのか萃香がつばさにタックルをかます。


「つばさ先輩!」

「だ、抱き着かなくていいから……落ち着いて早瀬さん」


 つばさも俺がやるのと同じように両手で萃香の頭を押す。

 ようやく萃香を引っぺがしたつばさは腕を組み、顎をあげる。

 

「叶くんはどう思う?」

「んー、俺は防衛のことしか考えてなかったよ」

「それね。私もあなたが女騎士へ質問をした時は同意見だったわ。そこのウサギは信用ならないけど、いざとなれば私たちが防衛すればいい。だからMPを補強したい」

「そうそう」

「でもね、叶くん、その案には重大な欠点があるのよ」

「な、何だってえーーー!」


 思わず叫んでしまった。つばさだけでなくまりこやゆめまで俺の大声に顔をしかめているではないか。

 

「叶くん、答えは時間よ」

「あ、ああああ。そうか」


 つばさに指摘されて初めて気が付く。寝ると転移する以前と異なり、俺たちは扉をくぐることで異世界へ行くように変わった。

 つまりだな、こうやって長時間異世界にいるのは週末に限られるってわけだ。


「ウサギ、君たちは日本へ行く扉をくぐることはできるのか?」

「それは不可能みゅ。もし可能ならとっくにそっちへ行ってるみゅ。チミ達五人以外はあの扉を使うことができないみゅ」

「言われてみればそうだな。ウサギが俺ん家の冷蔵庫をあさらないはずがないよな」

「そういうことみゅ。非常に非常に残念みゅ」

「ボクもです。ご主人様……ご主人様の日本のお部屋に……行きたいです……」


 ハル、頬を染めるんじゃねえ。つばさと萃香の目線が痛いったらありゃしねえ。


「ハルさん、抜け駆けは禁止であります」

「ひゃ、ひゃああ」


 ハルの態度にムッとした萃香が彼女を背後から抱きしめるようにして、おっぱいを……。

 

「そ、そういうのはあっちでやってくれ……目に毒だ……」

「嬉しいくせに、ハルさん胸が大きいし、あんなに形が変わってるわよ? 叶くん?」

「誤解されるようなことを言うんじゃない。話を戻すぞ」

 

 コホンとワザとらしい咳をして、平静を装う。

 

「ウサギ、もう一ついいか?」

「何みゅ? みゅーはデザートが食べたいみゅ」


 こ、こいつう。いや、逆に分かりやすくていいじゃないかと思い直す。

 

「分かった。リンゴを持ってきてやるから、一つ頼まれてくれるか?」

「何でもいってくれみゅ! みゅーに出来ることならなんでもやるみゅー」

「そうか、俺たちが乗ることができる飛竜は出せるか?」

「おやすい御用みゅー。どこにだって連れて行ってあげるみゅう。リンゴ、リンゴ……」


 頭の中が完全にリンゴに支配されていやがる。作戦結構時はリンゴの他にも何か準備してハルに監視させないと危険かもしれん。

 

「で、叶くん。さっきのやり取りでだいたい察したけど……あなたの意見は?」


 ニタアと悪そうな笑みを口元に浮かべつばさが俺を促してくる。


「うん、俺の意見もつばさと萃香と同じだよ。王都……いや王城を急襲し王様と『お話』するのがいいと思う」

「同志! 同志も同じ意見でありましたか!」

「良辰くんがそういうなら、わたしはそれでいいよー」

「お兄ちゃんについていくー」

「それでこそよ。叶くん」


 俺たちが異世界にいる時間は少ない。魔王城に不測の事態が起こったとしてもハルに知らせに来てもらうことは不可能。

 モンスターを大量に出せるヒビキはいつヒヨルか分からない。よって、王様が兵隊をこちらに向けた場合対応できない可能性が高い。

 逆に俺たちは現状で短期決戦ならば誰にも負けないほどのスキルを持っている。更にヒビキは空を飛び王都まで一直線に行くことができる飛竜をかしてくれときたもんだ。

 

 結論、攻められる前に攻めろ。つまり、王都急襲こそ最善。

 

 この後、みんなと相談した結果、明日の朝一に魔王城から飛竜を使って王都まで行き、空から王城を急襲することになったのだ。

 度肝を抜いてやるぜ。

 

 ◆◆◆

 

――翌朝

 朝六時に俺の部屋へ集合し、異世界へ行く。眠い目を擦りながら、ハルといっちー、ライオネルへ魔王城を任せることを告げ、ヒビキにはウサギ形態になってもらって俺の肩へ乗せる。

 女騎士は連れて行くか迷ったけど、下手な動きをされても困るからいっちーに預けることにした。

 飛竜は人間三人までしか重量に耐えられないらしく、誰が誰と乗るかでもめたんだけど……そこは割愛。

 

 ともあれ俺たちは飛竜二匹に分乗し空を進む。空から見える景色を楽しんでいたらすぐに王都が見えて来た。

 もう少し空の旅を楽しみたかったけど、それは後だ。

 一週間も前のことじゃないけど、俺たちの旅はあの街からはじまったんだよな。何だかとても懐かく思える。

 無一文で放り出されてから、まさかこんなことになるなんてあの時は想像できなかったが……。

 

 街は城壁で囲まれており、小高い丘の上に王城が建っている。王城には堀があり、跳ね橋がかかっていてそこからしか出入りすることはできなくなっているようだな。

 俺たちは空から行くからそんなもの関係ないがな。ははは。

 

「あそこがいいんじゃない?」


 前に座るつばさが指を指す方向を見ると、王城の二階にある広大なテラスが目に入る。

 あの広さなら、飛竜を二匹着陸させてもまだまだ余るほどだ。

 

「よし、ウサギ、あの場所へ着陸させてもらえるか」

「もぐもぐ……分かったみゅ」


 リンゴを齧りながら、ヒビキが飛竜に指示を出す。

 グングン高度が下がり、飛竜はテラスに着地した。

 さあ、お仕置きの時間だ。

 

 飛竜から降り立った俺は首を回し奥に見える扉を見やり、ニヤアと笑みを浮かべたのだった。

 

 

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