第27話 使者さん……

「よって、貴殿にはこの土地の税を納めてもらう必要がある。これがその書状だ」

「え。ええええええ」


 待て待て。なんだその理論。

 女騎士は無表情のまま事務的に羊皮紙の巻物を掲げてくる。

 そこへつばさが女騎士の手を払うように巻物を奪い取った。蝋をはがして中を改めるつばさ……。

 

「つばさ?」


 不安そうに俺が尋ねると、つばさは表情一つ変えずフンと顎をあげた。

 

「百万ゴールドですって、叶くん」

「つばさ、一つ重大なことがある」

「何かしら?」

「俺たちは異世界で通貨を手に入れたことがない」

「言いたいことは分かったけど、吹っ掛けられているのは確かよ」


 まあそうだろうな……。

 異世界で買い物をしたことがないから、百万ゴールドがどれだけの価値があるのか分からねえ。

 そもそも、価値なぞ理解する気もないがな。

 

「期限は一か月。ちゃんと揃えて王都へ献上しに来い」

「だが、断る」

「何?」


 女騎士が腰の剣に手を当てる。脅しのつもりだろうが、頭に血が上りやすいのは使者として最悪だぞ。

 俺は睨みつけてくる女騎士を無視して、口元をこれでもかと汚しながら行儀悪く食べ続けているウサギ耳少女形態のヒビキの首根っこを掴む。


「何みゅ?」

「王様が税金とか言ってんだが、いいのか魔王として」

「みゅーは日本の食べ物が食べられればそれでいいみゅ。もう国王のことなんて知らんみゅ」

 

 再び食べ始めようとしたヒビキの手元からサンドイッチを取り上げる。彼女は恨めしそうな目線でサンドイッチだけを追う。

 右に動かすと、目線が右に。

 ダメだこいつ。役に立たねえ。

 

「ウサギ、一つだけ確認だ。君の勢力圏は王様の領地じゃないよな?」

「そらそうみゅ。よっしーは『実効支配』って知ってるかみゅ?」


 その得意げな顔をやめろ。それくらい知ってるわ!


「使者さん、理由はそういうことだ」

「どういうことなのだ?」

「このクソウサギと同様、俺たちは俺たちで勝手にやらせてもらう」

「そうなれば力づくになるがいいのか?」

「望むところよ。後悔するわよ」


 一番いいセリフをつばさに取られてしまった。

 

「っち! お前たちの傍若無人さをそのまま報告するからな!」


 舌打ちし踵を返す女騎士の肩をむんずと掴む。

 

「時に使者さん、魔法って使えます?」

「私は騎士だ。嗜み程度しか使えない」


 イライラした様子であったが、ちゃんと答えてくれる当たり律儀な騎士様なんだろうな。

 しかし、口は災いの元って言葉を知っているか?

 

「いっちー、やっておしまい」

『グゲ……鎧……溶かしていいカ?」

「任せる」

『グゲ……ガーダー……グゲ……』


 いっちーが触手を伸ばし女騎士を捕らえ持ち上げる。


「な、何をする、お前ら!」

「聞こえんなあ。ゆっくりと『お話』しようじゃないか。俺は魔力の回復とMPの増加に興味があってね……知らない?」

「し、知っていても教えるものか」


 そう、知ってるのね。

 俺は自然な動作でゆめの目を塞ぐと、いっちーへ顎で指示を出す。

 すぐに察してくれたいっちーは『グゲ……』と呟くと蹂躙を開始する。

 

「ま、待て。お前、く……こんな辱めを……」


 何やらうるさい女騎士から背を向け、俺はにこやかな笑顔をみんなに向ける。


「お昼の続きは中で食べようか」

「叶くん、あなた……なかなか黒いわね……嫌いじゃないわ、そんなあなた」

「そ、そうか。へへへ」

「ふふふ」


 俺とつばさは低い笑い声をあげながら、若干引いているまりことゆめをよそに城内へ入っていくのだった。

 

 ◆◆◆

 

「同志、あんな回りくどいことをせず撃てばいいじゃないですか」

 

 城内に戻った俺へ萃香がきょとんとした顔で首を傾ける。

 

「萃香さん、それだと吐かせることができないわ?」

「そうでありましたか。深いです」

「萃香、いくら異世界でも人間を傷つけるのはやめよう。緊急事態の場合は……俺に言ってくれ」

「了解であります! もちろん、むやみやたらに人型を害するつもりはありません! AKを近くで乱射すれば、素直になると思っただけであります!」


 そ、それもちょっとアレだが。俺も人のことはいえん。

 何だか最近自分がダーティになってきているような気がする……ダークサイドに落ちないように注意しないとな……。


「良辰くん、どうしたの? 難しい顔をして」

「ん、いや、何でもない」


 まりこの天真爛漫さは癒しだなあ。すさんだ気持ちが彼女の顔を見ているとなんだか暖かくなってくる。

 じーっと見つめていたら意識していなくても彼女のプルンとした桜色の唇が目に入る。い、いかん、あの時のことを思い出して頬が熱くなってきた。

 

「あれ、良辰くん」


 額と額がごっつんこしてしまう。


「ま、まりこ?」

「んー、熱はないみたい。赤くなっていたから心配しちゃった」


 普通ならなんてあざといと思うだろう? でもまりこはこれを素でやっているんだぜ。だから、ちょっと可愛いと思ってしまった。


「ど、同志、私も頬が熱いです」

「だあああ、押し付けに来るな!」

 

 迫る萃香の顔を両手で押しのけ、苦言を呈する。

 しかし、ここで安心してはダメだ。前門の萃香とくれば後門にハルが迫ってきているはず……。

 俺はすっと片手を後ろに伸ばす。

――むにゅん。

 しまった。予想通りハルがいたのはいいのだが……見ずにカッコよく決めてやろうと思ったら、とんでもないところを鷲掴みにしてしまった。

 

「ご主人様、明るいのにダイタン……それにみなさんもいるのに……ボ、ボクは……」

「ご、ごめん」


 謝罪するも、俺には彼女の次のセリフは分かっている。

 

「ボ、ボクは興奮してしまいます……」


 ほらねえ。ハルはこんな娘なんだよ。うん。異世界恐るべし。いや、ハルだけかこんなのは。

 変なのは何も異世界に限った話じゃないもんな。ほら、萃香とか。

 

 妙に納得してしまった俺は腕を組みうんうんと首を縦に振る。

 そんなことをしている間に時間は過ぎ、サンドイッチを食べ終わった。そろそろいいかなあ。

 

 ◆◆◆

 

 テラスに出ていっちーと彼に絡めとられた女騎士の様子を見やる。


「どうだ? いっちー」

『グゲ……ガーダーもヨイ』

「そうか」


 どうやらいっちーはご満悦らしい。

 俺は女騎士を見上げニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

「気分はどうだ?」

「……責任は取ってくれるんだろうな?」


 女騎士は涙目になり顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにそう言った。

 あれ、予想と反応が違う。

 

「魔力の回復速度を早める方法とか、MPを増やす方法とか話してくれないか?」

「っん……あ、あう……」

「いっちー、すまん、少し手を止めてくれ」

『グゲ……』


 俺のお願いにいっちーの触手が停止する。そうなんだ、話をしている間もずっと触手が太ももをぬめぬめしていたのだ。

 

「……あ」

「なんだか不満そうだな」

「っつ……そ、そんなことはない! 話をしたら……ちゃんとしてくれるんだろうな?」

「おう、もちろんだ」


 必要な情報が聞けたら帰してやるよ。今後の計画を実行するにあたって、スキルの使える回数を増やしたい。


「魔力の回復は瞑想をすると早くなる。MPを増やすには魔法をとことん使うことだな。体力と同じだ」

「ありがとう。使者さん。いっちー離してやってくれ」


 いっちーの触手から解放された女騎士はその場でペタンと座り込み、しばらく身動きできないでいた。

 

「これ以上手出しはしない。約束だからな。王国へ帰るといいよ」

「……こ、このまま……な、のか……」


 女騎士は落胆した雰囲気で手をつく。

 無事に帰してやるって言ってるのに……何故落ち込む……? 解せぬ俺は顔をしかめ首を傾けるのだった。

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