男性最後の五分間

月天下の旅人

未来の日本では、少子高齢化解決のため性転換が行われていた。

 西暦2060年。ようやく宇宙開発も始まった世界だったが、そんな中で人口減少にあえぐ国があった。


 その名は『日本』。そう、日本は2060年になっても少子高齢化を食い止められなかったのだ。


 痺れを切らした日本政府は性転換法を成立させた。


 といっても性転換は強制ではなく任意だったのだが……


「なあ、お前本当に性転換するのか?」


 そう友人に問われる少年もまた、助成金目当てに性転換を行う一人だ。


 ちなみに性転換法が適用されるのは原則男性のみだが、性同一性障害である場合は『女性』が男性になることもできる。


 ただしその場合助成金を貰えないが、それでも無料で性転換を行うことができるのだ。


 2060年の日本……いや世界ではベーシックインカムが適用されている。


 そのため、極端な話をすれば働かなくても生活はできるのだ。


 なので少年が性転換を行うのは欲しいゲームを買う金欲しさという、気楽な理由であった。


 一度性転換した人間は戻れないため15才未満は親の同意が必要なのだが、ちょうど彼は15歳になっていたのだ。


「ああ。僕が男で居られるのは後四分……しゃべっている間に三十秒は過ぎただろうけど」


「遊ぶ金欲しさで受けるなんて……本当どうかしてるよ」


 そんな友人に、少年は返す。


「別に?僕は男でも女でも、君とは友達で居られるならそれでいい」


「分かった。俺たちは、お前が性転換しても友達だよな……!」


 心配してくれてわざわざやって来てくれた友人に、友達は笑顔で返す。


「面会の時間は終わりです。歩いて装置に着いたら、残り一分のカウントダウンが始まります」


 医者に連れられ、少年は装置の前へ立つ。


 装置はまるで酸素ボンベのような形であった。


「最終確認をする。服を脱いで装置に入った時点で同意とみなす」


 少年が服を脱いで装置に入ると、蓋が閉じる。


 性転換の際には、ボンベの中に気化させた性転換薬を散布するのだ。


 ちなみに気化した性転換薬は一定以上の密度でないと人間を性転換させることがないが、

万が一ということもあるため厳重に保管されている。


 なお装置には酸素も供給されるため、入っている人が窒息してしまうことはない。


 性転換薬が散布されると、少年の身体が徐々に変わっていく。


 15歳なので男性としては柔らかめな肌が女性のそれになり、胸も大きくなっていく。


 背も縮んでいき身体全体が華奢になると、そこには裸の『少女』が居るだけになる。


 性転換薬は全て少女に吸収されたため、蓋が開かれる。


 『彼女』は早速服を着ると医者に友達と会うよう促される。


「女の子になったよ」


「女の子になっても、お前はお前だ」


 彼女はそういってくる友達に何故か胸がときめく。


「もしよければ、付き合ってくれませんか!」


 この時を持って、二人は友達から恋人になった。


 これは、彼らが友達だった最後の五分間の話である。

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