古びたホテル街で。

むむ山むむスけ

『古びたホテル街で…』


「ねぇ…

あれってあれからどうなったの…?」


不定期ながらも度々開かれている女子会で

私が何の気なしにそう切り出してみると、

今まで楽しく話していたハズの空気が一瞬でガラリと変わった。


その時の当事者である友達のユキの表情が強ばっている。


「ごめん…聞かない方が良かったよね。」


そう言って慌てて取り繕う私に向かって

ユキは苦笑いを浮かべながら答えた。


「あっ!いいの、いいの。私も一回みんなにきちんと話しておこうと思ってたし。実は…」


こうして、ユキの口から語られた内容は、

その場の空気を凍りつかせるのには

十分すぎる内容であった。



◇◇◇



ある日の夜、

ユキは山の中を車で走っていた。


街灯の少ないこの山道は

とにかく見通しが悪い。


だからユキは普段以上に気をつけて

車の運転をしていた。


しばらく進むと、急に辺りが明るくなった。

どうやら山の中腹にあるラブホテル街に差し掛かったらしい。


「こんなネオンの光でも、

明るいと安心するわね。」


いかがわしいとはいえ大自然の中に突然姿を表したその人工的な建物の存在に、ユキはそう言って安堵の溜め息を漏らした。


ラブホテル街を抜けてすぐ―――…

ユキはに気がついた。


、それは…

前方の暗い夜道の中を

真っ白な服を来た髪の長い女性が

フラフラと歩いている姿だった。


はじめは『彼氏とケンカでもしてホテルから飛び出してきたのかな?』くらいにしか思っていなかったが、どうも様子がおかしい。


「こんな夜遅くにこんな山道の中を

若い女の人が1人で歩くなんて、

絶対におかしい。」


そう思ったユキは、

あえて車を大きく移動させ

対向車線側を走行する事で

その女性と距離をとりながら

その女性の横を通りすぎようと考えた。


そしていざユキが対向車線側へと

車を移動させた瞬間――――…


なんとあろうことか

その若い女性がものすごい勢いで、

車道側へと身を投げてきた。


思わず強くブレーキを踏むユキ。


気がつくと、

その女性はユキの車の前に横たわっていた。


力なく横たわるその姿に

ユキは思わず『轢いてしまったかも…!』と

思ったりもしたが、車に何の衝撃もしなかったし何よりも女性が倒れていたのは

止まっている車の少し前であった。


「大丈夫ですか!?」


すぐさま車を停めて女性に駆け寄るユキ。

すると、その女性はすくっと立ち上がり

そして再びフラフラと歩きはじめた。


「ちょっと待って下さい!

今、警察を呼ぶので…!!」


そう声をかけるユキを振り切って

どんどん奥へと進んでいくその女性―――…


ユキはすぐに車へと戻り、

携帯で警察に電話をする事にした。


車に乗り込み、警察に電話をしていると


…コンコン…


突然車の窓を外から叩く音がした。


見ると、その白い服の女性が

無表情のまま車の窓を何度も

ノックしている。


「…何ですか…?」


震えた声でおそるおそるそう問いかける

ユキに向かってその女性は無表情のまま

答えた。


「…やめてくれる?

そういうの。」


「…え?」


「だから、警察とかに電話するの

やめてくれる?もう大丈夫だから。」


そう言って警察が到着する頃には

その女性は忽然こつぜんと姿を消していた。



到着した警察官達はユキに向かって


「何かの見間違いだったんじゃないか?」

「タヌキでも轢いたんじゃないか?」


…と口々に話し、

ユキの話す『白い服の女性』の事を

みんな信用してないようだった。


確かにこんな山奥を

若い女が一人で歩いていたなんて話は

にわかには信じがたい。


だが、ユキは必死になって先程自分の身に起きた出来事を必死に警官達に訴えた。


「本当です…!

本当に女の人がいたんです…!」


すると、懐中電灯を持ってしゃがんでいたはずの警官の1人が突然すくっと立ち上がったかと思うと、静かにこう口を開いた。



「この子の言ってる事は本当だわ。


…ほら、バンパーのところに

人の手形がついてる。」


…と。


私達がユキから話を聞かされていたのは

ここまでであった。


「実は…」


そう重い口を開いたユキの口から語られたこの話の続きはこうであった。


それから数日経った頃から、

ユキの耳には自分の家の中を歩き回る足跡のような音が頻繁に聞こえるようになっていた。


不思議に思ったユキが職場の霊感がある人に

相談したところ、驚きの事実が判明した。


なんとその若い女には何体もの霊が取り憑いており、日常的に自殺をするように仕向けていたんだそうだ。


そして何とかユキの車に飛び込ませてはみたが、幸いユキの踏んだブレーキが間に合い彼女は轢かれずに済んだ。


だが彼女にとり憑いていた霊の一体が、その事を恨み、そのままユキの家まで付いて来て

今現在も家の中を歩き回っているとの事であった。


そう――――…


『お前のせいで、

死ねなかったじゃないか』


…と。


その話を聞いて私達は恐怖で

凍りついた。




ただ…

一番恐怖なのは…






この話が決して

フィクションなんかではなく、



私の友達の身に実際に起こった出来事だと

いうことなのかもしれない。










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古びたホテル街で。 むむ山むむスけ @mumuiro0222

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