第4話 ランニング
体力づくり基本はランニングである。
身体の健康も精神の鍛練もランニングのウォームアップから始まり、ランニングのクールダウンで終わる。
という顧問の先生と
ランニングを終えた頃にはもうヘトヘトになっていた。
まだ午前中とはいえ、じりじりと照らす日差しの中、蒸し暑い外を走るのはかなりきつい。しかも男子は女子よりも長い距離を走らされる。
ランニングどころかマラソンに近い。
ウォームアップなのに身体が沸騰しそうだ。
男子は疲れ知らずの主将を除いて、一人残らずバテバテになっていた。
僕は木陰に入って少し休憩をとった。
「はい、お疲れさま」
座り込んで涼をとる僕の頭に、先輩がタオルをかぶせた。
「あ、ありがとうございます」
「はい、どうぞ」
汗を拭く僕の前に、先輩はスポーツドリンクを出した。
「た、助かった……」
僕はもう焼け焦げそうな喉を急いで潤した。身体の中に冷たいものが通る感覚が鮮明にわかった。
ぷはー、生き返ったぁ。
合宿の恒例だけど、やっぱりこのランニングはすごく疲れる。
寒くもないのに、疲れて全身が小刻みに震えていた。
そんな僕の前に、先輩はしゃがみ込んだ。
先輩は長い髪をポニーテールにしていた。文字通りしっぽみたいなそれを肩からだらんと前に下ろしていた。
「
「え。そ、そうかなぁ」
「うん。去年はフォームも崩れまくってみんなから遅れてたのに。ほんと、すごいよ」
屈託のない笑顔を、僕に向けてきた。
確かに、そういわれてみると、そうかもしれない。
合宿に限らず、うちの部活ではけっこうランニングをする。途中で脱落する人もいるけど、僕は一度もやめずに走った。みんなのペースから大きく遅れることは何度もあったけど、でも、完走していた。
それが今は、こんなに疲れながらもなんとか先頭のペースに追いついていた。
自分でも成長できてると実感できた。
ま、途中でやめたら先輩にどこまでネタにされるかわかったもんじゃないから、だけど。
「でも……」
先輩を見る。
「うん? どした?」
先輩は見つめ返してくる。
周りの女子は大半が、まだ疲れてぐでっとしているけれど、先輩は汗一つない。拭いただけかもしれないが、でも、呼吸もほとんど乱れていない。その上、僕のことを観察して思考までできてる。
先輩こそ、すごいんじゃないか。
スタイルがいいとか、そんな見た目の話じゃない。先輩のポテンシャルはかなり高い。女の子なのに、体力の面で男にも負けないんじゃないか。
「先輩だって――」
僕の届かないようなところにいるじゃないか。
僕だって男なんだ。
先輩と同じペースで、いや、先輩より前を走りたい。
試合だって、先輩と同じレベルで話したいし、そう居たい。
それなのに、僕は、あんまりすごくない。
「…………」
「んー。何を考えているのかはあんまりわかんないけど。昂樹はすごいよ。頑張り屋さんだもん」
先輩はそんな風に軽く言って、僕の頭を撫でてくる。
タオル越しに、わしゃわしゃと。
「な、や、やめてよそれ……!」
「あはは! 照れるな照れるな~」
「て、照れてないしッ」
「でも抵抗しないんだよねぇ」
疲れて動けないのをいいことに、先輩は気の済む限り僕の頭をぐしゃぐしゃにした。
と、遠くの方で先輩を呼ぶ声が聞こえた。女子の主将だ。
「じゃ、私行くね。これも冷やしといてあげる」
僕の飲んだドリンクを手に取り、先輩は走っていった。
「もう……」
頭を上げると、向こうの方で
「ほら、飲みな、アキラ」
「それ、飲みかけじゃん。いらないよそんなの」
「お、生意気に意識なんかしてるなー?」
「してねえし!」
なんか、どこかで見たようなやり取りだった。
二人は
意識してるの、加賀美さんだよな。
狙ってるよ、間接キス。
ばればれだ。
ん?
そういえば、さっきのドリンク――ペットボトルのフタ、初めて開けた感じじゃなかった。キリリってなんなかった気がするけど……。
先輩の方を見ると、主将と話しながらドリンクを飲んでいた。
僕がさっきまで飲んでたやつを、だ。
「え。……えぇ~!?」
なんで普通に飲んでるんだよ。
……。
…………。
……………………。
「なんで普通に飲んでるんだよ!?」
先輩とあの夏、線香花火 Blue NOTE(ぶるの) @White_NOTE
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