初めての世界の終わりに
女「そういえば」
男「?」
女「私は昨日呑んで、記憶がないから、そこんとこよろしく」
男「……そうだね。いつも通り。世はなべてこともなし」
女「世は全てなにも無し」
*
男「そういえば、もう12月かぁ」
女「こんなになっても気候は変わるもんなんだね」
男「夏はその辺の結晶がひんやりしてて気持ちいいんだ」
女「冬は暖をとれないけどね。むしろ見た目が冷たそうで体感温度が下がる」
男「その時はほら、互いの熱で、ね」
女「ふむ、よかろう」
男「上からだねぇ」
*
男「―――くっしょい!」
女「おや、風邪かい?」
男「最近煙草吸い過ぎたからなぁ……のど痛めたかも」
女「気をつけてくれよ、医者なんてとうに廃業してるようなもん―――へ、へ、」
男「へ?」
女「ヘドバチキッショウィ!!」
男「なんて?」
女「あー、君のがうつったかな」
男「色々言いたいことはあるんだけどさ、最後に「畜生」っていうのは女性としてやめない?」
*
女「そういえば」
男「?」
女「今日が「始まりの日」からちょうど3年目らしいよ、ラジオによればね」
男「へー……気に入らないなぁ、やっぱり」
女「あ、またスイッチが」
男「そもそもさぁ、3年も終末長引かせてんじゃないよってね。こう、パキッとみんな一瞬で結晶になっちゃえばよかったのに」
女「……私はこれまで、君といられてうれしかったけどなぁ」
男「神様猶予をありがとう」
女「ちょろい」
<<彼の右踝は、曲がらなくなった>>
男「そういえば」
女「?」
男「なんか海外でパンデミックが起きて、人口が一気に減ったらしい」
女「そりゃお気の毒に。何人だって?」
男「今は全世界で、たった17万人だって」
女「……つまりどういうことか、わかるかい?」
男「配給が増えてウハウハになる」
女「流石私の惚れた男」
<<彼の右膝は動かなくなった>>
女「そういえば、今日は配給の日か」
男「そうだね、行ってくるよ。杖を―――いや」
女「?」
男「デートしよう」
女「のった」
*
男「ねぇ」
男「左目、どうしたの」
女「……先週くらいかな。起きたら視界が狭くなってて。今はもうほぼ効いてない―――多分、そういうことなんだろう」
男「……そうか。そうかぁ」
女「まぁ、確かに一番結晶化しやすそうではあるよね……水晶体なんていうくらいだし」
男「……ふぅ」
女「重い煙草、そろそろ切れるね」
男「一本?」
女「ん……ふー。まぁ、なんだ」
男「?」
女「君とおそろいで嬉しくもあるんだ」
男「泣きそうだからやめてくれ」
女「うれしくて?悲しくて?」
男「両方」
<<彼女の左目は光を亡くした>>
女「そういえば」
男「?」
女「私は最近、ちょっと大きな買い物をしたんだ」
男「へぇ、このご時世に」
女「あぁ―――水ペットボトル6本と交換でね」
<<君が君であるうちに。 私が私であるうちに。>>
男「そういえば、そうだな―――ちょっと前に、僕も君と同じ買い物をした気がするよ」
女「そりゃ奇遇だ」
男「まったく……うん。そうだね。僕らの終わりは、僕らで」
<<君が君であるうちに。 僕が僕でなくなるまえに。>>
女「終わるんじゃないよ、完結するんだ。私たちの愛だとか、欲望だとか、爛れた生活だとか、幸せだとかが」
男「ふむ?」
女「世界は終わったけれど、私たちはそれを尻目に一足先に完結するんだ―――それも、互い同士でね。どうだい?お気に召すかな?」
男「……いいな、それ。凄くいい。とっても素敵で、綺麗な
はじめての世界のおわりに、 恋人たちは拳銃を買った。
男「弾、込めた?」
女「ちょっと待って……ん。よし、できた」
男「よし、じゃあ交換だ……君、ピースメーカー買ったの?」
女「懐古趣味万歳、だ」
男「君らしいけどさ。じゃあ、7歩離れて」
女「1、2、3……今何時だい?」
男「時そばじゃないんだから」
女「よし、じゃあ、321で」
男―――あぁ」
3
2
1
夕暮れに染まった結晶の丘に、二つの銃声が響く。
……恋人たちは呆けたままで、互いの顔を見つめていた。
*
男「―――ぶっ」
女「―――く、くふ」
男「は、あははははは!ははははははは!」
女「くふ、ふ、ふふふふふふふふふふ」
男・女「「考えることは一緒か!」」
女「ひー、ひー……いやあ恰好つかないなぁ、あれだけ良い終わりについて恥ずかしく語ったってのに」
男「はは、まぁ……最期に、君に一杯食わせたかったんだよ。君に撃たれて、君の驚き顔を見て死ぬのもオツかなって」
女「まさかここまで思考も嗜好もかぶるとはねぇ……まったく」
君には生きていてほしかったなんて、もう、互いに言えなかった。
男「―――じゃ、こうだ」
ひとしきり笑い合ったあと、彼は彼女を抱きしめた。
女「ん」
彼女も彼を抱きしめた。
互いの胸には、しっかりと弾が込められた拳銃がそれぞれ突き付けられていた。
女「これなら、外さない。……ふふ」
男「?」
女「うれしいなぁ。私は君の足元じゃなくて、胸の中で死ねるんだから」
*
男「そういえば」
女「なんだい」
男「僕は君が、大好きだったんだ」
女「知ってる、私もなんだから」
ぱん、ぱん。
二人は絶えて、
一つになった。
はじめての世界のおわりに そうしろ @romangazer
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