手をとって末路に踊る

女「そういえば」


男「?」


女「この前近所でさ、タンデムのバイクを見つけたんだ」


男「丁度いい、物資探しの旅に出ようか」


女「なるべく近くに穴場があるといいんだが……というか君、パクることにはなにも言わないんだね」


男「こんなご時世だ、盗んだバイクで走り出したってお咎めはないさ」


女「十五の夜じゃないけどね」


男「どうでもいいけど、昔は十五の夜を「十五歳の夜」じゃなくて「十五日間の夜」だと思ってた」


                   *


男「よし、じゃあ行こうか」


女「私が言うセリフだろうそれは。運転手は私なんだから」


男「僕バイクの免許持ってないからさ、適当に走らせてくれよ」


女「りょーかい、とりあえず倒壊したドンキとは逆方向に遠征しようか。しっかり掴まって」


男「ん」


女「……そこは胸だ」


男「あぁごめん、掴みやすくて」


女「捕まってしまえ」


                 *


女「そういえば、珈琲の他に切れてるものはあったっけ」


男「塩、砂糖は次の支給までは保つから特にないかな。今回のメインは探索と嗜好品の補充になると思う」


女「つまるところは酒、菓子、煙草だね……そういや君、缶ピースがそろそろ切れるんじゃ?」


男「最近吸い過ぎたかなあ」


女「まぁ、こんなご時世だからね」


男「……」


                 *


女「そういえば、この辺りは全然人がいないね」


男「いたんじゃないかな、僕らの足元を飾っちゃう前には。それかどっかにキャンプでも作ってるのかも」


女「後者であることを祈るよ」


男「……もしさ、そういうキャンプがあったら、君は行きたいと思う?」


女「んー、いや、そうでもないかな。そこまで切羽詰まってもいないし。それに」


男「それに?」


女「今は君と二人でいるのが楽しいんだ、こんな世界になっちゃってもさ」


男「……君も大概、僕に甘いよなぁ」


                  *


女「そろそろ帰るかな、だいぶ収穫もあったし」


男「そうだね、何往復かして家まで運んじゃおう」


女「あいよ、じゃあまたバイクに2ケツだ」


男「懐かしいなぁ、高校のころを思い出すね」


女「夏休みにあてもなく走って、海に行ったりしたっけね」


男「海もかなり減っちゃったらしい。結晶が氷みたいに水面を覆うんだってさ」


女「いよいよ世界の終わり、って感じがするねぇ」


                 *


男「そういえば」


女「?」


男「帰り着いたはいいが、こうしてみると……うん、我が家は散らかり過ぎだ」


女「出た、君の時々妙に几帳面になるやつ……いいよこのままで。どうせ私たちしかいないんだしさ」


男「いやそれにしたってこれは……だってフライパンの上に僕の眼鏡と綿棒があるのは訳が分からないし、君のCDが食器棚にまで浸食してるのはもはやなにかのオブジェみたいだ」


女「そういうアートなんだ、だからのんびりだらけていようよ」


男「……まぁ、運転もしてくれたしね、今日はやめとこう。ドライバーさん、何か呑む?」


女「フォアローゼズ、ロックで」


男「僕は……珈琲でいいや」


女「おや珍しい、今日は酔って私を襲わないのかい?」


男「素面で見る酔っぱらった君は、何だろう、凄く目の保養になるんだ」


                     *


女「んふ、んふふー」


男「左右に揺れてる、かわいい」


女「んふんふ」


男「なめこかな?」


女「きみぃ、なんか面白い話をしてくれよー」


男「すごい無茶ぶりしないで……わぷっ」


女「ん―――はぁ」


男「むしゃぶりつくのもだめですー」


                     *


女「……ふふ、結局襲うんじゃないか」


男「酔った君はやばい。多分素面の君が酔った君を見ても普通に襲うと思う」


                   *


女「そういえば」


男「?」


女「ひまだからクイズでもしようか」


男「なにがそういえばなんだろう」


女「仕方ない、書く側の都合だから」


男「それいじょういけない」


                    * 


女「じゃ、お題は『なんで世界は滅んじゃったのか』。はいスタート!」


男「どっちかって言うと、クイズというより大喜利みたいだ……うーん」


女「私はね……うん、一人の女の子の涙がこの結晶になって、世界が終わるんならいいなぁって思ってるよ」


男「寺山修司ほんと好きだね君」


女「『きみ、知ってるかい? 海の起源は、たった一しずくの女の子のなみだだったんだ。』」


男「……うーん、なんか癪だなぁそれも」


女「おや、お気に召さないかな」


男「いや、確かにロマンはあるんだけど。何だろう、負けた感じがするんだよね」


女「ふむ?」


男「いやさ、僕らって、何でも自分たちで決めてきたじゃない」


女「だから終わりも自分たちで決めさせろ、と?」


男「多分、そういうこと」


女「ふふ、また君の小学生スイッチがはいったのかな」


男「うるへーやい」


               *


女「はは、じゃあ君は?どういう終わりなんだと思う、この終末は」


男「んー。いつかも話したけどさ、神様からのお情けなんじゃないかな、やっぱり」


女「ほう」


男「ちょっと煙草……ふう。昔に比べて星も見えづらくなった。海は汚れる。ヒトもキカイも煙を吐く」


女「君みたいに?」


男「僕みたいに……ふう。だからせめて終わりくらいは、綺麗に終わらせてやろうって」


女「成程ねぇ―――君も浪漫主義者ロマンティシストだよね、しかもかなりの」


男「悲観主義者ペシミストなだけかもしれないぜ」


                *


女「じゃ、もうひとつ」


男「ん」




女「あとどれくらい一緒にいられる、かな」


男「―――君が望む限り……ふう。それか、僕の指がうごかせなくなったら、かな」




女「……そっか。そっか」


男「やっぱりばれるよなぁ、君だもの」


女「そりゃばれるさ、君のことだもの―――煙草、一本もらうよ」


男「ん」


女「ん……ふー、ぐ。……ああくそ、目に染みるなぁこれは。くそ、くそう……涙が、でるんだ」


男「そうだね、海ができるよ」


女「煙いなぁ……くそう」

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