この星の、やさしさの

男「そういえば」


女「……どうしたんだい、起き抜けに」


男「そろそろ珈琲が切れそうだ」


女「死のう」


男「僕が悲しいからやめてくれ」


女「私の27%はカフェイン、58%は君への愛、10%が煙草なんだよ」


男「残り5%は」


女「こしあんとか、そんなん」


               *


男「また今度遠出して、新しい資源調達の場を探さないとなぁ」


女「ドンキ……惜しい店を亡くした……」


男「あんまり遠出する時はあれを持っていこう」


女「君は人相が悪いから、強盗と間違えられそうだ」


男「僕ほど人畜無害な男もそういないよ」


女「まぁ隣に私みたいな美女がいるから緩和されるか」


男「尊敬する人は?」


女「カラミティ・ジェーン」


                  *


女「そういえば」


男「ん?」


女「君は体温だけは冷たい」


男「末端冷え性なんだ、僕」


女「コトの最中はあんなに熱かったのに」


男「君は僕の養命酒なんだ」


女「あれは不味いよ」


男「良薬は口に苦いし、僕は独特で好きだけどなぁ」


女「苦い薬であるより、甘い毒でありたいね」


男「じゃあ間をとって酒?」


女「ほう、そのこころは」


男「呑み過ぎると、呑まれる。おやすみ」


女「……おやすみ」


               *


「そういえば」


そういえば、そうだった。


「確かにおかしなことでは、ないよな」


この世界は、もう、あらゆるものに優しくはないのだから。



男「……僕が先かな、彼女が黙って居るのでなければ」



ある朝、彼の右足の爪先は、

妙に硬く、冷たくーーー透けていた。


男「……ふぅ」


彼は重い煙草を吸いながら、隣で眠る彼女の髪を撫ぜる。


男「まぁ、いいか」


その決断にはまだ早い。時期も、症状も、覚悟をするにも。


彼の視線は、鈍く光る「あれ」が無造作に置かれた本棚の上に注がれていたーーー。



男「養命酒では、治んないよなぁ」

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